「そもそも政府は何のためにこんなことをやるのでしょう」

「ズバリ、消費を拡大してデフレを脱却するためです」

「はあ? うちは家計が厳しいからこの制度を利用しようと思っているのに、消費の拡大って……どういう意味ですか」

「もしも子供の教育費の心配がなくなったら、小森さん、どんな気持ちになりますか」

「もちろん、家計は随分楽になりますよね。我慢していた海外旅行にも行きたいし、主人の車も買い替えてあげたいし……」

政府の狙いはまさにここにある。毎年毎年、分割払いで教育費の援助をしてもらっても家計は消費に走らない。なぜなら、いつ援助を打ち切られるかわからないからだ。今年は貰えても来年は貰えないかもしれないと思ったら、財布のひもは緩まない。しかし大学卒業までの教育費を一括で貰ってしまえば、浮いた分のお金を消費に回す気持ちになるのではないか?

「確かにそうですね。しかも、贈与してもらった1500万円も、余れば自由に使えるかしら」

「いや、いや、そんなに甘くはないですよ」

贈与を受けたお金の使い道は学校に支払うことが原則になっている。学校以外へ支払うお金も500万円が限度。もしも、孫が30歳になった時点で使いきれなかったお金は、その時点で贈与を受けたとして贈与税が課税されてしまうのだ。

「うちの子は国立大学を目指しているって言ってるし、少し減らしてもらうほうがよさそうかしら」

「もう貰えるつもりのようですが、本当にまとめて贈与してくれるかはわからないですよ。一度お義父(とう)さんの立場になって考えてください」