テレビ企業に恩を売り、支配下に置いた

実際に、テレビ放送の隆盛に至るプロセスを見ると、このときの郵政大臣としての田中の方針がターニングポイントになったのは事実であった。実行力があるというだけではなく、その方針は日本の高度成長を支えていく土台にもなった。

保阪正康『田中角栄の昭和』(朝日文庫)
保阪正康『田中角栄の昭和』(朝日文庫)

わずか1年の在任期間にこれだけの土台をつくりあげたという先見の明で、田中が並み外れた政治的計算と時代を透視する目をもっていたことに多くの者は容易にうなずいたのである。

同時に、田中が情報操作に「卓越した能力」を発揮する素地もこのときに固まった。ここで私のいう「卓越した能力」とは、テレビ放送事業そのものを意のままに動かすという手法をつくりあげたということでもある。

自らの息のかかった人物を送りこんだり、郵政官僚の天下り先として、テレビ企業は重要な受け皿となっていく。NHKの会長人事もまた田中の意に沿うものでなければならなかった。

地元・新潟での支持は揺るぎないものに

郵政大臣を経験したあとの総選挙では、田中は前回の5万5千票に3万票以上も上積みした8万6千票を集めた。新潟三区で8万票以上もの票を集めた代議士はこれまで一人もいなかった。田中は初めてその壁を破ったことになるし、集票そのものは磐石の体制ができあがっていったのだ。

10年余の代議士生活で、田中は選挙区内で支援者に、ささやかな利益誘導から始まって、東京見物というお土産つきのバス旅行まで、多くの“利益”を与えつづけたのだが、そのような目に見える形の“利益”に加えて、新たに「庶民政治家」「実行力ある政治家」というイメージが加速度的にふり撒かれ、新潟三区の知識層の間にも田中に対するプラスイメージが増幅されていった。

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