業界の寵児ゆえ同業者などからたびたび批判を受けてきた
これまで述べてきたように、蔦屋重三郎とTSUTAYAには血縁や直接的なつながりはありません。しかし、江戸時代と昭和・平成・令和という異なる時代において、大衆が求めるものをいち早く察知し、文化を広めていったという点で共通しています。蔦重が「江戸を代表するプロデューサー」だとすれば、増田氏は「平成を代表するプロデューサー」の一人だと言えるかもしれません。
ただ、この原稿には書いていませんが、蔦重も増田氏も大きな失敗を数多く経験しています。同業者などからたびたび批判をうけ、毀誉褒貶が多いということも共通しています。またその逆境を乗り越えて「誰もみたことのない作品」に立ち向かうエネルギーの強さこそが、一番似ていると筆者が感じるところです。
増田社長が退いたCCCの新ビジネスは成功するか
2023年4月、CCCでは増田氏から髙橋誉則氏に社長が交代しました。翌年、髙橋氏は代表取締役社長兼CEOに就任し、増田氏は代表権のない会長となり、経営の一線から退きました。髙橋氏は新卒でCCCに入社後、子会社の社長を務めるなど活躍しましたが、2018年に一度退社し、3年間の主夫生活を経て2021年に復帰したという経歴の持ち主です。増田氏とはまったく異なる視点で、CCCの新しい作品を発表していくことでしょう。
新体制となった2024年4月には、「好きなもので、世界をつくれ。」をテーマに「SHIBUYA TSUTAYA」をリニューアルオープン。推し活の殿堂ともいえる、全く新しい作品となっています。
大河ドラマ「べらぼう」をきっかけに、蔦重とTSUTAYAの関係に興味を持つ人も増えることでしょう。偶然の一致から始まったこの二つの「蔦屋」は、時代を超えて共鳴し、人々の暮らしを「文化」で豊かにする精神が宿っているのかもしれません。