江戸と令和、時代を超えてシンクロする「二つの蔦屋」

業界関係者の予想に反して、代官山蔦屋書店は幅広い層の人々に圧倒的な支持を受けました。それまでややもすれば安っぽいと見られていたTSUTAYAのイメージを一新し、CCCの代表作ともいえる企画作品となったのです。その後も函館、湘南、梅田、枚方、広島、銀座など、日本全国にさまざまな形態の蔦屋書店を展開していきました。

創業当初は蔦重のことを全く知らなかった増田氏も、「蔦屋の由来は蔦屋重三郎ですか?」と問われることが増えるにつれ、次第に蔦重に興味を持ち調べるようになりました。実際、「蔦重」と「蔦屋書店」には驚くほど多くの共通点があります。増田氏自身もその著書で次のように語っています。

TSUTAYAの店舗
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共通点が多すぎて「ほとんど他人の気がしない」と増田氏

「(蔦重のことを)知れば知るほど、自分との共通項の多さに驚かされる。最近ではもうほとんど他人の気がしないほどだ。レンタルとセルを組み合わせた商売が出発点だったと聞くに至っては、私が『TSUTAYAの名は蔦屋重三郎にあやかったものではない』と言っても、逆に誰も信じないのではないかとさえ思われた」(『知的資本論』より引用)

実際、両者のビジネスモデルは偶然の一致と思えないほど似ています。蔦重の出発点は吉原での貸本屋でした。TSUTAYAもまず成功したのはビデオのレンタル事業で、ここに共通点があります。また「本を入り口に、さまざまな文化・アートを企画し、世の中に広めていこうとする」という部分も共通点が見られます。

蔦重がさまざまな作家や絵師をプロデュースできたのは、「吉原細見」という安定したストックビジネスがあったからです。同様に、CCCが発展した背景には、フランチャイズ事業からの安定した収益が大きな役割を果たしていました。安定した収入があったからこそ、大きなチャレンジが可能だったのです。