認知症・理解ワード⑤ こだわりは、否定するほど強くなる

CASE5 スーツに着替えてから出かける夫
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イラスト=上大岡トメ

E子さんの夫は認知症になっても体は元気。「散歩に行ってくる」と家を出て、2〜3時間歩いて帰ってきます。それはいいのですが、出かけるときになぜか会社員時代のスーツを着ていくのです。夫はやせてしまいサイズも合わないうえ、下には普段着のポロシャツを着ているので不格好です。E子さんはそのスーツを隠し、普段使いにできそうなジャケットを買ってきましたが、夫は「ない、ない」と大騒ぎ。深夜になっても探し続け、根負けして古いスーツを出しました。真夏になっても気にせずスーツを着続けているので、熱中症にならないか心配です。でも本人は汗をかきながらもコンビニで買った缶コーヒーを飲みつつ元気に歩いています。

スーツを着ると安心するのです。命にかかわらなければOK!と考えて

認知症になるとこだわりが強くなる人は多いものです。そのこだわりには必ず理由があります。E子さんのご主人は「家を出るときはスーツ」という習慣があったはず。見た目はチグハグでも、本人にとっては安心できるスタイルなのです。命にかかわることでなければ、見て見ぬふりでいいでしょう。高齢になると暑さ寒さを感じにくくなるので、水分補給をしているかを気にしつつ見守るのがいいと思います。

原因をとり除くことで、解消できるこだわりもあります。私の患者さんに妻へのこだわりが異常に強い人がいました。外出先から帰ると「どこへ行っていた」「浮気したのではないか」と言うのです。奥さんはほとほと困り果てていたのですが、よく聞くと「1年前に、夫が財布や通帳をなくすことが増えたので、お金にからむものを全部隠した」と言うのです。妻を疑うようになった時期も、ちょうどそのころだったそうです。妻が夫に通帳などを返したところ、パタリと妄想はなくなったといいます。通帳は大事なものですが、心の安定はそれ以上に大切なものだと思うのです。