認知症・理解ワード⑥ 全部忘れてしまっても、感情だけは残る
CASE6 ヘルパーさんの来る日は質問攻めがない
F彦さんの母はおだやかでやさしい人だったのですが、認知症になってから見たこともないような表情で怒ることが増えました。F彦さんは仕事で日中不在なので、デイサービスやショートステイ、ヘルパーさんなどの力を借りながら介護をしていますが、家に帰るとイライラした母に何度も同じことを聞かれるのが苦痛でした。ただ、ヘルパーさんが来る火曜日と木曜日だけは質問攻めにされることは少なく、激しく怒ったりすることもありません。とても感じのいいヘルパーさんなので、母と相性がいいのかな、とF彦さんは感じています。
「うれしい」「楽しい」と思える時間が認知症の“問題行動”を減らしていく
認知症の人は記憶障害によって、ついさっき起きたことも忘れてしまいますが、そのときに抱いた感情だけは心の奥に残るものなのです。たとえば家族や介護スタッフにいつも「違うでしょ」「もっとこうしてください」などと言われていると、「嫌なことを言われた」「この人はこわい人だ」という印象だけが強く残ってしまいます。その人の顔は覚えていないはずなのに、同じような場面になると「こわい」「嫌だ」という感情がよみがえってくることがあるのです。また、マイナスの感情が心の内側に残ると不安や緊張が強くなってしまうため、同じことを何度も確認したり、「○○しましょう」と声をかけられても「嫌だ」「行きたくない」と拒むようになったりすることもあり、介護がしにくくなってしまうのです。
逆に、普段から「ありがとう」や「助かりました」と言われている人はおだやかで、介護しやすくなるといわれます。それは私たちだって同じ。感じのいい対応をされれば、こちらも協力したくなるもの。それは認知症の有無とは関係ないのです。