しんじょう君との相乗効果で寄付額が1700倍に
しんじょう君の発信力も強力な追い風だった。2015年のしんじょう君のTwitterフォロワー数は約3万人。返礼品を掲載した後、しんじょう君がSNSで告知すればすぐに数千から数万PVのアクセスがあった。PV数が増えるとふるさと納税サイトのランキングで上位に表示され、より多くの人に選ばれやすくなる。
ふるさと納税の告知をする際にも、しんじょう君はファンを楽しませる姿勢を崩さなかった。「しんじょう君を応援する気持ち」を「須崎市へのふるさと納税」というかたちで示してくれるファンも多かった。
ÒㅅÓ。)ノ須崎のふるさと納税にもだしてる伊勢海老がしゅやくの新作映画がでるよー☆でないよー☆
— しんじょう君Shinjo-kun (@susaki_city_PR) December 19, 2024
小さなかわうそと巨大な伊勢海老がおりなすこみかるではーとふるなすとーりーを、ぜひ年末にごかぞくでおたのしみください☆ pic.twitter.com/cpJ8ocH5JT
平日はふるさと納税、休日はイベント出演。隙間時間を見つけてはこまめに返礼品の動きをチェックした。入職当時「人の3倍は働こう」と心に決めた熱意のままに、トライアンドエラーを繰り返していった。
「しんじょう君のファンや地元の人、市役所の同僚など、僕らを応援してくれる人たちのためにも結果で応えたかったんです」
地道な努力が実を結び、2015年度の須崎市のふるさと納税額は約5億9000万円に拡大。翌2016年は約10億円にまで増加した。守時さんだけでは手が回らず、1年目の1人体制から2年目は5人体制となった。
2020年に守時さんは市役所を退職して地域商社「株式会社パンクチュアル」を創業。市からの委託を受け、しんじょう君と須崎市のふるさと納税事業を運営している。
民間企業になったことで、異動がなくなりノウハウが蓄積できる体制が整った。守時さん以外が非正規職員だったチームの雇用を守ることができ、新メンバーも加わった。事業はさらに加速し、独立初年度の須崎市のふるさと納税は21億円を突破。2023年度には34億円と、事業開始から9年で寄付額は1700倍にもなった。
電気代をケチろうとした街が、保育園無償に
現在ふるさと納税で集まった寄付金は、しんじょう君の活動費のほか、保育園の無償化、高齢者の生活支援、廃れた商店街を再生する「海の街プロジェクト」などに活かされている。フランスで開催される「Japan Expo」への出展など海外に向けたPRにも寄付金が活用されている。
まちは今、活気に溢れている。観光客のほか、国内外からの移住者も増加。守時さんが「真っ暗だった」と語った街並みはリニューアルが進み、商店街には新しいアンテナショップがオープンした。魚市場は観光客がセリを見学できるように改修作業が進められている。
須崎市出身のコンテンツクリエイターで、現在はパンクチュアルで働く塩見開さん(34)は「本当にまちが明るくなりました」とその変化を嬉しそうに語る。
「昔はなにもない地元が嫌いだったんです。一度離れて帰ってきたら雰囲気がすごく変わっていて驚きました。しんじょう君のおかげで外から注目されて、観光客が増えて、変化していくまちを見るのはやっぱり嬉しいし楽しいです。最近の須崎はなんかすごく明るいんですよ。本当に変わったなと思います」