コロナ禍のピンチもしんじょう君が解決
守時さんが立ち上げたパンクチュアルは、ふるさと納税のほか、現在は地域産品を扱う自治体ECにも力を入れている。そのきっかけとなったのはコロナ禍の「カンパチ事件」だ。
創業間もない2020年5月、須崎市内の漁業関係者から「コロナ禍で料亭などに卸していた高級カンパチの行き場がなく困っている。このままだと廃棄するしかない。そうなれば倒産だ。守時さん、助けて!」とSOSが入った。
なんとか力になりたいと思った守時さんは、しんじょう君のグッズ販売用だったサイトを急いでリニューアル。須崎市の特産品販売サイト「高知かわうそ市場」を立ち上げてカンパチの販売を行った。すかさずSNSでしんじょう君が「カンパチや漁師さんを助けてほしいよー!」「味には絶対の自信があるよー!」と呼びかけた。
すると大量の注文が入り、3日で1億円ものカンパチが売れた。その後も他の事業者から、タイ10万匹、ブリ28万匹が余っているというSOSが入り、同様に販売。さらに約6億円を売り上げた。
「昨日まで魚が売れなくて死にそうだった漁師さんが、逆に忙しすぎて死にそうになっちゃって。1分間で50匹くらい注文が入りました。あれは本当におもしろかったなあ」
その年、高知かわうそ市場では海産物を中心に須崎市の特産品を8億5000万円売り上げた。ECサイトは集客や差別化が難しく、「個別に自治体が運営しても儲からない」というのが通説だった。守時さんとしんじょう君は見事その通説を覆してみせたのだ。
こうしてパンクチュアルには、ふるさと納税以外にECサイト運営という軸が完成。多方面から「稼げる自治体づくり」を行っている。
「地域外に1円たりとも出したくない」
パンクチュアルがふるさと納税事業を行うのは須崎市だけではない。2024年12月現在、30を超える自治体で事業を展開している。各自治体のふるさと納税額は毎年大幅に増加し、事業開始1年後の増加率は平均2.5倍を記録している。
守時さんが一番大切にしていることで、同社の大きな特徴となっているのが徹底した地域密着運営だ。
各自治体には必ず事業所を開設し、担当社員は必ず住民票を移してそのまちに住む。住民として生活をしながら、返礼品の開発から情報発信までトータルで事業をおこなう。
守時さんは「支援」という言葉は使わない。パンクチュアルの社員はあくまで地域のいちプレイヤーとして自治体と一緒に走り回る存在なのだ。地域に根付く「ヨソ者」たちが「選ばれる特産品づくり」に奔走している。各地のノウハウは他地域にも共有され、全国で第2、第3の須崎市を育んでいる。
根底にあるのは「地域外に1円たりとも出したくない」という守時さんの「怨念のような想い」。現地にいないと当事者意識は決して生まれない。ふるさと納税は地域へお金を“還す”ことが目的だ。「地域外に住んで遠隔で事業をしていたのでは事業をやる意味がなくなってしまう」という。
「地方創生に関わる会社は二極化していると思うんです。まちおこしはボランティアで当然だと思っている会社と、地方創生が儲かるから参入してくる都会の会社。前者は事業の継続性が低くて続かないし、後者はせっかくの利益が地域に還元されない。だから僕らは徹底的に地域密着で事業をやりながら、しっかり稼いで、その土地で得た利益を地域に再投資してお金の循環を促すような組織でありたいんです」