「土佐弁も話せないヨソ者」に課せられた試練
しんじょう君人気は大きくなったものの、相変わらず活動予算は限られたまま、須崎市の財政状況もまだまだ危うい状態だった。
「ふるさと納税と組み合わせれば、しんじょう君の人気と発信力をまちのお金に変えられるかもしれない」
ちょうど上司からも「しんじょう君でふるさと納税をやってみないか?」と声がかかったこともあり、守時さんは2015年からふるさと納税事業も担当することになった。
当時の返礼品は5000円と1万円の「特産品詰め合わせセット」のわずか2品。2014年度の須崎市のふるさと納税は27件、寄付額は200万円程度だった。まずは出品してくれる事業者探しから始まった。
しかし事業者探しは思った以上に難航した。
「そんなうまい話があるか!」
「詐欺やろ!」
当時はまだ制度について知らない人も多く、玄関口で追い返されることもあった。
ある時は「職員を名乗る土佐弁も喋れない男から、税金がどうとか不審な電話があった」と市役所に通報されてしまったこともある。
またある時は、訪問先で「お前、ゆるキャラの奴やな! ちょっと当てたくらいで調子乗るなよ!」と怒鳴られた。そして守時さんとは関係ない市役所の対応の悪さについて2時間以上も説教されてしまった。
それでも守時さんは根気強く市内の事業者を回った。上司とともに一軒一軒訪問し、飄々とふるさと納税についての説明と説得を続けた。
「大阪のフリーター時代にいろいろな人と出会う機会があったので、僕、対人メンタルはめちゃくちゃ強いんです。こういう時、昔少しグレていてよかったなと思いますね」
プライベートの時間でも地域の会合やイベントにできる限り参加していた守時さんは、事業者とは飲み会や地域行事で顔を合わせることも多かった。そうした仕事以外の時間もフルに使って協力の輪を広げていった。
「小夏」を「日向夏」とするだけで人気急上昇
返礼品集めと同時に、守時さんは見せ方や売り方にもこだわった。
例えば、須崎市では「小夏」という柑橘がとれる。手のひらサイズの黄色いみかんで人気の特産品だ。当然ふるさと納税の返礼品にもなっていた。しかし思った以上に寄付が集まらない。どうしてだろうと思い調べてみると、実は「小夏」は高知県内の呼び方で、全国的には「日向夏」が一般的だった。
守時さんは「小夏」を「日向夏」として出品することを提案する。当初は「俺らが育てているのは小夏だ! 人生かけて栽培してるんだ!」と反発もあったが、守時さんはしれっと「小夏(日向夏)」に変えて掲載することにした。
すると結果は大当たり。小夏(日向夏)はふるさと納税サイトの人気ランキングで上位に表示されるようになり、多くの寄付金が集まった。
「生産者さんと仲良くなっていたからできたことでもあるんですけどね」と言うとおり、地域に入り込み信頼関係を築いたからこそ、守時さんはその“よそ者目線”をうまく活かせたのかもしれない。
最終的には市内の約50の事業者が協力してくれることになり、海産物や柑橘類、工芸品など1事業者あたり3〜4品、合計で約200品を集めることができた。