「将来何になりたいの?」と聞かれた小学2年生の回答

一方で、日頃接している人間が異次元である彼らの何気ない会話にぎょっとする場面もあったという。

「指定校の生徒たちの保護者はだいたい社会においての成功者ですが、有名人・著名人の子どもは必然的に目立ちますよね。テレビや雑誌で日常的にみていた人の子どもがたくさんいましたが、どの子たちも基本的には誰かに迷惑をかけたりすることはありません。

あるとき、一世を風靡したアイドル歌手の子どもが高校の途中で海外留学へ行ってしまいました。このように、1つの居住地だけに縛られない方も多く、いい意味でさっぱりしている人が多いですよね。

印象に残っているのは、当時小学校2年生だった男の子です。聡明で、特に作文能力が高い子でした。東証一部上場企業の創業家のご子息で、「勉強の習慣をつけたい」とのことで週に1回指導をお願いされていました。

ドラマや映画が好きというだけあって、相当な作品数を観ていました。雑談のときに『将来何になりたいの?』と聞いたら『漫画原作者』と即答。『俳優じゃないの?』と聞いたら、『絶対に表には出たくない。有名になればいろいろ煩わしいの知ってるから』とのこと。その点、漫画原作者ならば、大好きなドラマや映画の世界とも裏方としてかかわれるという彼なりの判断だったようです」

子供による良いアイデア
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです

承認欲求に駆られ、有名になることを望む人が多い一方で、有名になるかならないか自分で決められる立場にいて「ならない選択」をする小学生がいる。

わざわざ努力して偏差値を上げる必要がない

いまだに諸角氏が「不思議だった」と首を傾げるのは、講師の選抜試験のことだ。早稲田大学法学部を卒業している諸角氏は、一般的にみれば高偏差値になろう。

「ただ、学歴で選んでいないのは明らかでした。面接は会長がすべて担当するのですが、履歴書はほとんど見ておらず、雑談だけ。話の途中で『あなたは採用します』とだけ言われました。会長はとても社交的で目力のある方でした。

自分のときがそんな調子だったので、形式だけの面接なのだろうと思っていたのですが、そうでもなかったようです。旧帝大の理系学部に通う友人は落とされていました。あとから考えると、学力よりも生徒と空気感が合うかどうかを見ていたように思います」

生徒との相性という概念は、曖昧にも思える。この点、諸角氏はXが求める生徒との付き合い方について、こう考察する。

「Xに通っている生徒たちのなかに、受験を成功させて立身出世を目指す人はいません。たいていの場合、上についている大学に進学します。そうでない場合も、過度な詰め込みをして自分の偏差値を限界まで引き上げようという人は見たことがありません。

その理由は、偏差値を上げる必要がないからです。それよりも彼らに必要なことは、和を乱さないことであるように私には感じました。幼い頃から縁があって同じ場所で学ぶ仲間たちを尊重して、ゆくゆくは一緒に成功していくこと。おそらくそれが何より大切なので、名門大学卒業の肩書きも高偏差値という成果も、彼らには不要なのではないでしょうか」