「夜勤明けで疲れた体に染みわたるんです」
ここへ来るときはいつも一人です。家族はいましたが、15年ほど前に離婚したきり、会ってもいません。娘はもう35歳、結婚して子どもが生まれたと、Facebookを見て知りました。寂しくはありません。もう慣れましたから。
夜勤明けで疲れた体に、日光橋食堂さんで食べるサバの煮つけが染みわたるんです。生まれ育った家の味が、じんわりと。家に帰って来たような気がします。タレを創業時から継ぎ足しされてるんですか。だからあんなに深みがあるんですね。
夜勤明け、「プロジェクトX」の再放送を横目で見ながら、日光橋食堂さんでサバの煮つけを食べる。満たされた気持ちで家に帰って、処方された睡眠薬を飲み、ぱたんと横になります。夢を見ることなく、ぐっすり眠れるんです。
あんな食堂は、もうほとんどありません。だから、ずっと続いてほしいですね。
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忙しい昼が始まる
11時過ぎになると、一組の客が来店してきた。20代から50代まで、体の大きな男性ばかりの7人組。それをきっかけに、次々と客が来店し始め、インタビューは一時中断せざるを得なくなった。
光利さんが厨房で3つの鍋を器用に振る。赤い舌のような炎が、使い古された中華鍋をがっちりと掴んで燃えていた。鍋の上では野菜が踊り、醤油ダレが滑り落ちる。あっという間に3品が出来上がった。
厨房でザクザクとキャベツを切っていた神田さんが手を止め、炊飯器の前に回り込む。彼女の手の倍はありそうなどんぶり茶碗の中に、漫画のような山盛りの白飯を盛る。