「松本人志の才能あっての作品のヒット」
岡本社長の目的は、Amazonプライムビデオが配信している「HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル(略称:ドキュメンタル)」を売り込むことだった。「ドキュメンタル」は、「LOL: Last One Laughing」のタイトルでメキシコを皮切りにオーストラリア、ドイツ、イタリア、スペイン、フランス、ブラジル、カナダなど世界25以上の国と地域でフォーマットセールスされている。
講演では、制作のきっかけや成功の理由などについて熱く語り、宣伝展開をおこなった。「ドキュメンタル」のようなSVOD発のフォーマットセールスは、今後、テレビ局にとって強力なライバルとなってゆく。その反面、吉本のような制作会社にとっては「ドル箱」であり、重要な戦略となる。
しかも、配信にはスポンサーは存在しない。「テレビ局」「事務所」「スポンサー」という三者のパワーバランス外にある「ファン」の支持があれば安泰だ。松本人志氏のファン層は、ビートたけし氏のそれと似ていると言われる。嫌いな人も多いが、その分“熱狂的な”ファンも多い。そんなファンの支持さえ得られれば、復活も可能性が高くなる。
私が確信する理由は、もうひとつある。タイミングの良さだ。松本氏が「週刊文春」への訴訟を取り下げたのは11月8日。その2週間ほど前の10月20日に、岡本社長はカンヌのMIPCOMで松本氏の「ドキュメンタル」を世界に向けてアピールしている。あたかも訴訟取り下げを見越していたかのようだ。
「松本人志の才能あっての作品のヒット。僕らは何の迷いもなく、ますます広がっていければいいと思っています」
「告訴取り下げ」でつかんだもの
岡本社長が現場で述べたその言葉は、バックアップを確約するものであると言っていい。吉本は、松本氏の世界的な人気を配信上で示し、日本国内に周知させようとしている。そして、世論が「やはり松本の才能はすごい」と再認識したところで、テレビへの復帰を画策しているのではないだろうか。
それが、訴訟取り下げの際の「関係各所と相談の上、決まり次第、お知らせさせていただきます」という前向きなコメントにも表れている。
だが、このプランには大きな問題がある。日本では「ドキュメンタル」はシーズン13までが配信されている。しかし、配信直後の2024年1月に松本氏の芸能活動休止が発表されたため、以降は更新されていない。過去作に頼るのには限界がある。一刻も早く更新したい。そういった焦りもあるだろう。「配信」というステージに残された唯一の道を松本人志氏と吉本興業がどう歩んでゆくのか。目が離せない。