「文春オンライン」(2023年12月26日)で松本氏に関する報道が始まるやいなや、直後の「人志松本の酒のツマミになる話 2時間スペシャルin福岡」では提供スポンサーの表示が消え、CMがACジャパンのものに差し替わった。テレビ局というのは、スポンサーに頭が上がらない。CM枠を買ってくれる大事なお客様だからである。そのスポンサーが松本氏を排除したため、仕方なく「トカゲのしっぽ切り」をおこなわざるを得なくなったのだ。
同じく、事務所・吉本興業の反応も早かった。当初は松本氏に同調するかたちで「当該事実は一切なく、本件記事は本件タレントの社会的評価を著しく低下させ、その名誉を毀損するものです」と表明していたが、およそ2週間後の2024年1月8日には松本氏の芸能活動休止を発表していた。この「変わり身の早さ」の理由については、後述する。
「スポンサー第一主義」の民放各局
「活動休止」電撃発表を受けて、松本氏が出演する番組を抱える各局は大騒ぎとなった。主には、「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!」「ダウンタウンDX」(ともに日本テレビ系)、「クレイジージャーニー」「水曜日のダウンタウン」(ともにTBS系)、「人志松本の酒のツマミになる話」「まつもtoなかい」(ともにフジテレビ系)、「探偵!ナイトスクープ」(朝日放送)の7本のレギュラー番組である。
しかし、そんなとき、在京民放のなかでただ一局、「うちには影響なし!」と断言していたのがテレビ東京であった。テレ東には松本人志氏のレギュラー番組はない。それどころか、松本氏はテレ東の番組に一度も出演したことがない。当時、著者がこの件についてテレ東の番組制作関係者に取材をしたところ、「うちには関係ないですから、逆に気が楽です」と話した。
以上のように、ジャニーズ性加害問題を経て、タレント不祥事の対応において痛い目にあった「テレビ局」「事務所」「スポンサー」の三者は、松本氏のおりには、ある種の「自浄作用」を働かせることができた。そして10カ月経ったいまでも、スポンサーはCMなどへの松本氏の再起用を解禁してはいない。
それはそうだろう。イメージを第一に考える広告の世界では、「疑惑」とはいえ、今回のような「性的なスキャンダル」のイメージは悪過ぎるからだ。したがって、「スポンサー第一主義」の民放テレビ局において、当分の間は松本氏の復帰は無理だと言わざるを得ない。
「他局を叩くようなインタビューは流せない」
そして2つ目の「テレビ局の横並び主義」だが、これは以前から私が指摘しているテレビ局の「構造的欠陥」と呼べるものである。テレビ局は、ほかの局より「突出」することを嫌がる傾向にある。報道においても「うちの局が最初に情報を出さなくてもいいのでは?」と忖度し、ほかの局が発言し始めてから“安心して”ニュースを流す。
また、他局の不祥事やミスを取り上げたり批判したりすることは、「自主規制」する。これはドラマ「セクシー田中さん」問題のときに顕著だった。日テレの汚点とも言えるこの件を、他局はニュースですら扱おうとはしなかった。