社員の給与を引き下げる方法には以上のようなやり方があるが、実際にはどれもハードルが高い。
まず個別同意だが、給与カットというマイナスの話で本人の同意を得ることは困難である。まして書面にすることは非常に難しい。実態としては社長が社員へ一方的に給与カットの話をして「じゃあ、そういうことで」で済まそうとするようなケースが多い。こうした場合、往々にして後でトラブルになる。
降格による給与カットは、そもそも就業規則に降格規定がなければお話にならない。なければ規定をつくるところから始める必要がある。
降格規定があっても引き下げ金額が大きいと、裁判になるとストップをかけられる。実際に社員の給与を約5割カットしたところ裁判になり、「社員が生活できなくなる」との理由で会社側が負けた判例がある。降格規定をつくっても、引き下げ幅は我々の感覚だとせいぜい1年に1割が上限だ。
加えて、降格や降職には明確な根拠が必要であるが、「この人は仕事ができない」と証明するのは意外に難しい。営業のように成果が数字で表れる仕事でも、担当エリアや客層によって、能力不足といえるかどうかは微妙だったりする。
したがっていきなり降格や降職に踏み切るのではなく、本人の意見や同じ部署、他の部署の意見を聞いて、降格や降職の判断を行う仕組みをつくったうえで、社員の生活に支障のない範囲で給与を引き下げるように、丁寧に段階を踏んで進める必要がある。
やりたい放題に給与カットや降格を行っている経営者を見かけることがある。しかし、そうした扱いを受けた社員が労働組合に駆け込んだことを知り、あわてて我々のような経営者側に立つ弁護士へ相談に来られても、時すでに遅し、もはやお手上げである。
(構成=宮内 健 撮影=的野弘路)