「3.11」の原子力事故を(“想定外”の大きな津波によって壊された)偶発的な事故として処理しようとした当時の菅直人政権だが、逆に自らの危機管理能力の低さを露呈させ、首相自ら「脱原発依存」の旗を振ってパンドラの箱を開けてしまった。
民主党政権が行った“愚かさ”の極みを象徴する出来事は、エネルギー政策という、国家にとって極めて重要な課題にもかかわらず、「国民的議論」と称して、感情的な世論調査に委ねてしまったことだ。
そもそもエネルギー政策というものは、高度の専門知識が必要で、長期的かつ地政学的な視野に立って戦略を策定しなければならない。ところが民主党政権は国民に十分な情報を与えないで、「30年の原発比率は、0%、15%、20~25%、さてどれがいい?」と選択肢だけを提示したのである。
そのため、半数近くの人が「原発ゼロ」を支持する結果となった。これは原発事故の余韻が日本を覆っている状況だったから当然だろう。これについて、民主党の幹部に問い質したところ「日本人だから、3択を与えたら真ん中を選ぶと思っていた」というのだから、全く呆れるほかない。
民主党政権が、パンドラの箱を開けてしまった以上、今後は、安倍自民党政権も自分たちがかつて行ってきたように国民に対する説明なしにエネルギー政策を進めることはできない。
では、これまでのエネルギー政策はどうだったのか。現在のエネルギー需給状況はどうなっているのか。将来に向けてどういう選択肢があるのか。そのうえで原子力が果たす役割はどれくらいあるのか、あるいはないのか。このように手順を踏んで説明しない限り、エネルギー問題の議論は進まない。
今度は、国民の同意なしに“なし崩し的”に自民党が原発再稼働をすることはありえないし、今の自民党にその力はないと私は思っている。