対中関係を重視し、スパイ活動を容認していた
中国の諜報活動の拡大は西側諸国にとって重大な脅威となっているが、西側の対応はなぜ遅れてしまったのか。この問題については、英国公共放送BBCが対外諜報機関(MI6)の幹部の発言を引用して興味深い報道をしている。
報道によると、「中国の諜報機関は2000年代にはすでに経済スパイ活動を展開していたが、当時の西側の企業は往々にして沈黙していた。なぜなら、中国市場における立場が危うくなるのを恐れて明らかにしなかったのだ」という(BBC NEWS JAPAN 2024年6月11日)。
重要なビジネスパートナーである中国との関係を悪化させたくないばかりに沈黙していたのは企業だけでなく、政府や政治家も同様である。たとえば、ドイツの国会では中国の経済スパイの脅威が高まってきても、中国との関係を重視する意見がずっと根強く存在しているという。
ドイツの国会議員で元陸軍将校でもあるローデリヒ・キーゼヴェッター氏は、「ドイツの諜報機関は数年にわたって中国の経済スパイの脅威について警告したが、その警告は故意に聞き入れられなかった」と述べている(ガーディアン紙、2024年5月8日)。
脅威を再認識し、対策を強化
また、英国は2010年代にデビッド・キャメロン首相が英中の経済関係の強化を背景に両国関係を「黄金時代」と表現した。
しかし、英国の中国専門家のマーティン・ソーリー氏は近々刊行される著書『All That Glistens(輝くものすべて)』の中で、「英国がキャメロン首相時代の英中友好の“黄金時代”を吹聴したことで、結果的に中国は(英国の)政治家や実業家を操りやすくなった」と指摘している。
最近はこの「黄金時代」を皮肉って、「黄金の失敗」ではなかったかと揶揄されているというが、2022年に誕生したスナク政権で外務大臣を務めたキャメロン氏も中国を公然と批判するようになった。同氏はその理由を「多くの事実が変わった。中国は時代を決定づけるチャレンジ(難問)になった」と述べている。
欧州は最近になって、中国のスパイ活動への対応に力を注いでいる。英国のMI6は2024年1月、中国の諜報活動に対応するために専門の外国人コンサルタントを雇ったという。
また、ドイツは2024年4月、フェーザー内相が「中国のスパイ活動がビジネス、産業、科学に多大な危険をもたらしていることを認識している。我々はこうしたリスクと脅威を非常に注意深く見守っており、明確な警告を発し、あらゆる場所に防諜措置が強化されるよう意欲を高めている」と述べ、中国にメッセージを送った。