この事件は氷山に一角にすぎない

サン被告は30代前半だった2017年に海外在住の中国人青年を称賛するイベントに参加するため、北京を訪れた。その際に出身地の江蘇省南京に立ち寄り、中国の諜報機関の一部である江蘇省統一戦線工作部(UFWD)の幹部と会談した。

その幹部は彼女に「米中友好の大使となり、ニューヨークの中国人移民の間で積極的に連帯を促進するべきだ」と伝えたという(ニューヨーク・タイムズ紙、2024年9月16日)。この会談がサン被告に中国政府の代理人となるきっかけを与えたようだ。

中国政府は海外の中国人コミュニティや中国系の政治家・役人などを利用して情報を入手し、政策を形作ろうとする諜報活動を行っているが、彼女のケースは氷山の一角にすぎない。

軍事技術を盗むために研究者に接近

ドイツの公共放送ZDFは2024年4月22日、「中国がドイツ国内で積極的に情報を探り出そうとしていることがわかる注目すべきニュースです」と述べ、中国の諜報機関の指示を受けて軍事転用が可能な技術を入手したとして3人のドイツ人が逮捕されたと報じた。

中国の諜報機関である国家安全省(MSS=Ministry of State Security)のスパイとして活動していたトーマス・アール被告はその技術を入手するため、一組の夫婦を仲間に引き入れた。夫婦は経営する会社を通して、研究者や大学などとコンタクトを取り、軍艦用エンジンなど機械部品の最新情報を収集していたが、当局から自宅と職場の捜索を受け、アール被告とともに逮捕された。

トップシークレットと書かれたファイル
写真=iStock.com/DNY59
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また、同じ日にイギリスのロンドン警視庁が英国議会の調査員だった男2人を中国のためにスパイ行為をしたとして、敵国に利用されるかもしれない文書・情報の入手を禁止した国家機密法の違反容疑で逮捕した。

2人は保守派の議員らでつくる中国研究グループと関わりのある議会調査員で与党保守党(当時)の議員数人と接触していたとみられている。

この疑惑に対して在英中国大使館の広報担当官は、「中国が“イギリスの機密情報を盗んだ疑いがある”という主張は完全にでっち上げで、悪意ある中傷以外の何ものでもない」と一蹴した。