中小企業の倒産と若者の失業というリスク

同日、中国財政省(わが国の財務省に相当)は期待が高まった財政出動を明示しなかった。財政政策の不安上昇から中国株を売る投資家は増え、8日の上海株は下落した。12日、藍仏安財政相は新たな財政出動案を発表した。内容は中央政府と地方政府に分かれる。中央政府は特別国債を発行して資金を調達する。公的資金を国有大手銀行に注入し、金融システムの安定性を高める。

不動産バブル崩壊以降、中国人民銀行は金融を緩和し、銀行の融資増加を目指した。しかし、住宅価格の下落により建設活動や企業の設備投資は伸び悩んだ。需要伸び悩みの一方で供給は過剰になり、銀行が利ザヤを確保することは難しくなった。

その状況が続くと中小企業の倒産は増え、若年層の雇用・所得環境の悪化懸念も高まる。中国政府はそうしたリスクを先んじて抑制しようとしている。中央政府は国債発行で調達した資金を使い、奨学金枠の倍増など学生支援、地方政府の財政支援も計画している。

交通網の延伸、EV充電ステーションの増設…

2024年の全国人民代表大会以降、中国政府は自動車の買い替え促進策やマンション在庫の買い入れ策、金融緩和など複数の経済対策を実施した。それでも若年層の失業率は上昇し、不動産市況の悪化は止まらなかった。今後も中央政府は、経済環境の変化に合わせて国債の発行を増やし、追加の対策を打つだろう。

藍仏安財政相は、地方政府に債券発行の増加を求める方針も示した。今後、地方政府も債券の発行を増やして、高速道路や鉄道の延伸、EV(電気自動車)の充電ステーション設置などのインフラ投資を積み増すとみられる。地方政府は、マンション在庫の買い入れ、不動産バブル崩壊で需要が減少し未使用となった土地の買い戻しも実施するようだ。

今回の財政相の会見は、中国の地方政府の財政政策の転換を示唆する。2023年10~12月期以降、地方政府傘下の企業である“地方融資平台(LGFV)”の資金調達は減少した。中央政府が、財政が悪化した地方政府にインフラ投資の停止や、債務圧縮を指示したことが影響した。