足枷になるかもしれない「女性」を抑えた

あの場面で、高市氏が、「安倍元首相の遺志を継ぎ、女性初の首相になります」と宣言していれば、結果は違ったかもしれない。しかし、こんな声もある。

「表立っては言えないけど、女性という点に抵抗がある議員は大勢いたと思いますよ。男性議員だけじゃなく女性議員の中にもね」(旧安倍派の前衆議院議員)

高市氏は、9人の候補者が並ぶ演説会や討論会で、柔らかい笑顔を努めて作っていたが、投票直前の最後のスピーチで「女性」を前面に出すことを抑えたのは、極度の緊張に加え、党内に渦巻くミソジニーに配慮したからかもしれない。

高市氏の敗北で思い出したのは、2016年11月8日、ニューヨークで目の当たりにしたアメリカ大統領選挙だ。

トランプ氏が当選確実となったのを受け、敗れたヒラリー・クリントン氏が、「(女性初の大統領という)最も高くて硬いガラスの天井はまだ打ち破れていないが、いつか誰かが達成してくれる」と口惜しそうに語った瞬間は今でも忘れることができない。

8年経っても「ガラスの天井」は高くて硬い

そのクリントン氏は、8月19日、民主党大会で演説し、「ガラスの天井をもう少しで打ち破れるところまで来ている」と、ハリス大統領誕生に強い期待感を示した。

ハリス氏は女性であると同時に黒人、正確に言えばインド系移民2世である。ただ、「非白人」という点では、2008年の大統領選挙で、バラク・オバマ氏(当時47)が、肌の色の壁を打ち破っている。残るは「女性」という壁だけだ。

ここまでハリス氏が表舞台に登場したシーンを振り返ると、中絶問題以外で、ジェンダーに踏み込むことはほとんどない。

服装は常に、ベージュか白か青系のスーツ姿で163センチの体を包み、時折、笑顔は弾けるものの、いたって中性的だ。

ハリス氏から率先して「女性」や「ガラスの天井」といったワードを使うこともなければ、クリントン氏のようなエリート臭を漂わせることもしない。

そこはハリス氏や陣営スタッフのミソジニーに配慮した賢い点だが、「リアル・クリア・ポリティクス」などの世論調査によると、支持率はペンシルベニアやミシガンなど激戦7州のうち5州で、トランプ氏がリードしている。

しかも、ミシガンとウィスコンシンは、最近になってトランプ氏に逆転を許している。日本で伝えられているほどハリス氏は強くないのだ。