さて三振1個当たりの打数、つまり何打数に1回、三振を取られたかという指標で見ると、ウィリアムズの記録は「史上最も偉大な打者」の名にふさわしいものだ。彼は無駄振りをしない選手で、三振で打席を終わることはさらに少なかった。この点、ホームラン狙いの大振りが求められる現代に生きる大谷は分が悪いかもしれない。

でも私が思うに、昨年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)決勝で日本がアメリカに勝利したのは、スモールボールに秀でていたおかげではなかったか。

⑤1盗塁当たりの試合数
過去の名選手と大谷の1盗塁当たりの試合数
画像提供=ニューズウィーク編集部

出塁率に長打率を足したOPSという指標と同じく、1盗塁当たりの試合数からは、打率だけでは見えない打者の「付加価値」が分かる。

大谷は多芸な選手で、対戦チームにとってはさまざまな場面で脅威となる嫌な相手だ。盗塁を決めてシングルヒットを事実上の二塁打や三塁打にしてしまう能力で、大谷は他の偉大な打者たちより優れている。

以上の5つの指標から大谷のMLBでの7年間の活躍を見ると、彼は一流の打者ではあるが、史上最も偉大な打者たちの仲間入りをするにはまだ至っていないと言えるだろう。

しかし8月28日に本拠地ドジャースタジアムで行われた試合は、大谷の面目躍如だった。大谷と愛犬デコピンの首振り人形が観客に配られ、デコピンが始球式をしたこの試合に、大谷は「1番・指名打者」で出場。第1打席で今季42本目となる本塁打を打ったかと思えば、第2、第3打席も出塁し、それぞれ盗塁を決めて今季の盗塁数を42にした。

大谷はこんな偉業を何度もやってのけている。

大谷は「偉大な打者」という言葉では表現し切れない存在なのだ。彼ほど多芸で才能にあふれ、野球のさまざまな場面で優れたプレーができる選手はいない。

多芸ぶりが抜きん出た選手という意味で、大谷と肩を並べられるのはルースだけ。そしてルースにしても、そんなプレーをしていたのはレッドソックス時代の数年間だけで、それも100年以上前の話だ。

つまり大谷と往年の名選手たちの違いは、打撃よりも第一線で活躍し続けた年数ということになる。そういう意味で大谷がルースやウィリアムズと肩を並べるには、あと5〜10年は恐ろしく高いレベルで投打で活躍し、盗塁を決め続けなければならないだろう。

父が見ていたら言うだろう。大谷みたいな選手にはめったにお目にかかれないと。

※記事中の記録は日本時間9月28日正午現在

当記事は「ニューズウィーク日本版」(CCCメディアハウス)からの転載記事です。元記事はこちら
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