一人よりみんなとやったほうが楽しく、やる気も出る

私たちは、他の人と一緒のときには、いつも以上の力が出せます。これを「社会的促進現象」と呼びます。

ドイツにあるヴェストファーレン・ヴィルヘルム大学のヨアヒム・ハフマイヤーは、1996年から2008年のオリンピック、1998年から2011年の世界選手権、2000年から2010年のヨーロッパ選手権における、100メートル自由形の水泳選手199名(男96、女103)のタイムを調べてみました。

その結果、個人の自由形より、リレーの自由形のときのほうがどの選手もタイムが伸びることがわかりました。

人間は面倒くさがり屋なので、一人ではついつい手を抜いてしまいますが、他の人と一緒だと、そういうわけにはいきません。手を抜くどころか、他のメンバーに迷惑をかけないようにと、必死になっていつも以上の力を出してくれるかもしれません。

人を動かすコツは、一人でなく、他の人と組んでやってもらうこと。

何をするにしても、一人よりはみんなとやったほうが楽しいですし、やる気も出やすいはずです。

リモート勤務で本気で取り組めない根本原因

世界的なコロナウィルスのパンデミックのため、リモート勤務をする人が一気に増えました。わざわざ会社に出向く必要がないわけですから、テクノロジーの進歩を大歓迎した人も多いことでしょう。

ところがその一方で、会社ではなく自宅で仕事をするようになって「いまいちやる気が出ない」と感じる人も多かったのではないでしょうか。

会社に行けば、周りにたくさんの人が働いていますが、自宅では一人で仕事をしなければならないからです。

私たちは、他の人たちから見られていると思うと、やる気が出ます。他人に見られていると、手抜きもせず、本気で取り組めるのです。

米国ジョージア州にあるマーサー大学のキーガン・グリーニアは、数字の並んだリストを見せて、「4」の数字にだけ丸をつけていく、という退屈極まりない作業をやらせてみました。

ただし、半数には「マジックミラーの向こうには別の人がいて、あなたの姿を見ている」と伝えました。

マジックミラーの向こうにいる人は、ただ見ているだけで、何かの評価をするわけではありません。

ところが、実験に参加した人たちは、見られていると思うと、張り切って作業に取り組んでくれました。

作業を一人でやると平均して59.1個しか丸をつけませんでしたが、他の人に見られていると伝えた条件では平均75.5個もの丸をつけたのです。