「ご予約様」の「様」を抜くだけで適切な表現に

おかしな妄想をかき立てないためにも、次のようなシンプルな案内でいいはずです。

「お客様が来られました」
「お客様がお見えです」
「お客様、ご案内します[いたします]」

ついでながら、予約の電話を受け付ける場面でも、「あいにくこの日はたくさんのご予約様をいただいております」と「ご予約様」が聞かれます。こちらも「ご予約をいただいております」のほうが自然です。「様」を抜くだけ。簡単です。

レストランで注文を尋ねる女性に確認する男性店員
写真=iStock.com/koumaru
※写真はイメージです

「ご病気」は敬語として間違っていない

「ご病気が回復されたとのこと、安心いたしました」
「目がお疲れになっていらっしゃいませんか」
「お声がきれいでいらっしゃいますね」

前述の「ご予約様」からの流れだと、これらの表現を「人でないものに敬語を使っている。大間違い!」と言いたくなってしまうかもしれませんね。しかし、決めつけるのは早合点。これらは「所有者敬語」という呼び名もあり、目や声の持ち主である聞き手(Yとします)を間接的に高めるものとされています。

一見すると、病気・目・声が高められているように感じられますが、問題のない表現です。この場合、「(Yの)病気が回復した」「(Yの)目が疲れている」「(Yの)声がきれい」のように、病気・目・声の所有者Yが隠れた主語になっています。体の一部だけでなく、性格・名前でも「気立てが(お名前が)素敵でいらっしゃる」などと使えます。

「お帽子がなくなられましたか」は盛りすぎ

住所はどうでしょう。

引っ越せば変わりますが、どこかに住んでいる限り、本人と切り離せません。「ご住所(お住まい)が変わられましたか」は割と自然です。装いについても、「帽子がお似合いでいらっしゃいます」に目くじらを立てる人は少ないでしょう。とはいえ、個人差や地域差もあります。

また、どこまでも無制限に所有物に使えるとは限りません。次の表現(左:カギカッコ内)は、明らかに盛りすぎです。

●「プリンターがお壊れになったと伺いました」(○プリンターが壊れたと伺いました)
●「お帽子がなくなられましたか」(○帽子をなくされましたか)

特に最後の「お帽子」に至っては、音だけ聞くと「亡くなられましたか」と勘違いしてしまいそうです。隠れた主語「あなたは」を引っ張り出す気持ちで「帽子を」と始めるほうがスッキリします。そうすれば、すんなり「なくされましたか」が続くでしょう。分かちがたいほど似合う運命的な帽子にも、それはそれで出会いたいものですけれどもね。