気配りの本質は、人を思いやる心・老婆心でなくてはなりません。そもそも「顧客だから」「上司だから」という人を選んだ気遣いではなく、すべての人に対して平等にすべきものであり、気遣いの質はもっと高くあるべきなのです。

相手が何を欲しているか。どんなことをしたら怒るのか喜ぶのか。表面的なことではなく、そういう人の心情を深く推し量ること。重要なのは、相手の心に対する洞察力なのです。思いやりの心をただ持っているだけでなく、人間の智恵のひとつである洞察力が加わって初めて、真の老婆心を持ったと言えるでしょう。

例えば、取引先へのプレゼン。往々にして、事前に自分が一生懸命に作り上げた資料を説明するのに終始してしまう。その裏にあるのは、自分に都合のいい論理。儲けの算段です。でも、一方的にこちらが言うだけでは、失敗に終わります。

では、何をより優先すべきか。それは、取引先の言い分にしっかり耳を傾け、相手の心情を吟味すること。

「細部」に気づく力を高め、相手の発言の行間を解読できるようにならなければなりません。先方の話からにじみ出るもの、浮き彫りになるもの、本当に欲しているものをすくいとって、それをプレゼン文書に盛り込めば、結論は違うものになるはずです。顧客にとってプラスになることがファーストプライオリティとなるのです。

私は、中国古典から3つの倫理的価値観を学びました。「信」は、約束を破らないこと。「義」は、正しいことを行うこと。そして「仁」は、相手の立場になって物ごとを考えること。老婆心は、この「仁」の心だとも言えます。

仁という字は「人」に「二」と書きます。これは人間が2人いることを表しています。人間が2人集まると、コミュニケーションが生まれます。そして意思疎通がだんだんはかれるようになると、今度は「恕」という働きが起こるのです。

「恕」は、「如」に「心」と書くように「我の如く相手を思う」という意味があり、それは慈愛の情、惻隠の情と言い換えてもいい。このような気持ちが、老婆心と仁に共通した点なのです。