――警察に入ってすぐに裏金に気づいたんですか。

いや、最初はわかりませんでした。ある日、先輩が上司から呼ばれて、何か書きよるわけですよ、暗い顔して。それで、「先輩、それは何ですか?」って聞いたら、「お前もそのうちに分かる」と言われたので、僕はさらに、「何なんですか?」と食い下がったんです。

そうしたら、「裏金よ……」と。おそらく、ほかの人は上司から命令されたら、意味がわからないままニセの領収書を書かされるんでしょうけれど、僕は先に聞いていたので、上司から書けと言われても拒否し、絶対に書きませんでした。

パトカーと警察官
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同期トップクラスで巡査部長になったのに…

――れっきとした犯罪行為ですよね。

おっしゃる通りです。まず、ニセ領収書を作る行為は私文書偽造。その領収書をもとに、会計課員が公文書を偽造して税金をだましとれば、公文書偽造・詐欺罪に当たります。さらに、この金を警察官が使うとなれば、業務上横領のほか、脱税の罪に問われます。もとを正せば、そのお金は国民の血税ですからね。

こんなこともありました。あれは1973年、24歳だった私は同期の中でトップクラスで巡査部長の昇任試験に合格し、最年少で幹部会議に出席したんです。胸を張ってね。ところが、その会議の最後に、署長がこう言うんですよ「サンズイがないじゃないか。去年も今年もない、いかんぞ!」って。すると、みんな下向いとるわけです。

――「サンズイ」とは何でしょうか。

汚職事件のことです。汚職の「汚」はさんずい偏ですよね。それで「サンズイ」って言うんですが、とにかく全国の警察の評価は「サンズイ」ありきなんです。たとえば、県知事や市長といった政治家たちの汚職を検挙することも大事ですし、公務員の贈収賄などを何件上げることができたかといったことも全国的な評価になる。

私は初めて出席したその幹部会議で手を挙げて、「サンズイがないんだったら、警察の裏金やらんですか? コレ、大きいですよ」って言ったんです。そうしたら、署長以下、全体がしらーっとなって、すぐに、「今日の会議は終わり。解散」となりました。

ニセ領収書を書かないことへの仕打ち

――その後、どうなったのですか。

即、異動です。田舎の駐在所にね。ちょうどそのころ女房が妊娠中で、間もなく出産という時期だったにもかかわらず僻地へ異動させるんですから、酷いでしょう。その後、16年間で7所轄、計9回にわたって報復ともいえる異動を命じられました。私の次男は、小学2年生の夏休みまでに3回も転校を強いられました。