僕は監察事案として事件化してほしかったんですけど、できなかった。本当に、なぜここまで腐るのかなというのが42年間警察にいて痛感したことです。せめて警察官として最後の一線ぐらいは守れよと思います。これは永遠の課題です。
もちろん、まじめな警察官は大勢いて、仕事のできる人は一生懸命仕事をしています。僕らも地元の人たちから慕われ、いまだにいろいろと連絡してくれる人がいたりするので生きがいもありますけど、警察という組織は、いくら正義感があってもそれが通らないことがあるんです。
昇任試験はできが悪くても、上司にたてつかず裏金を作り、カネやモノを持っていく人が先にとおる……、そんな現実を見てしまうと、組織の中で本音が言えず、自分の仕事に幻滅し、ストレスがたまってくるんです。ついついそれが爆発して、万引きしたり、下着を盗撮したり、ということに走ってしまうんだと思いますね。
組織の中で出世したい気持ちも分かるけど…
――どうすれば不祥事は減ると思いますか。
諸悪の根源は、裏金です。もちろん、最初は知らずにニセの領収書を書く人もいます。よくテレビに出る警察OBの中には「自分は知らなかった、領収書を書けと言われたから書いただけ」なんて言っている人もいますが、違法だと気づいてからも書き続けるのはおかしいだろうって僕は思いますね。自分が犯罪に手を染めていることに気づけば、誰しも警察官としてがっくりきます。とにかく、裏金という犯罪に手を染めてほしくないんです。
裏金は完全になくなることはないにしても、慰労や懇親会で必要な程度の裏金ならここまで腐ることはないと思うんです。とにかく、こんなに激しい裏金作りで「みんなで赤信号渡れ」と、署員に犯罪を強いるのだけはやめるべきです。
僕は警官の仕事は本来すばらしいものだと思っています。こんなに人から感謝される仕事はありません。組織の中で出世したい気持ちも分かるけど、それがすべてではありません。
僕の家の近くに署長になった先輩がいるんですが、僕と会ったら今でも目を背けますよ。でも僕は、どこに行っても胸を張っていられます。警官を志した以上は、法を守り、法を犯す者を取り締まる、この原点に返ってほしいと思います。
この裏金問題は決して警察だけの問題ではありません。今では日本のさまざまな組織で問題化するようになりました。犯罪を取り締まるべき警察が長年にわたり犯罪に手を染めてきたことが大きな原因だと私は考えています。組織を内側から腐らせる裏金の根絶には、警察が過去を反省し、生まれ変わることが不可欠です。
――ありがとうございました。