転職できるシニア人材にはどのような特徴があるのか。近畿大学教授の奥田祥子さんは「シニア層の転職では、根回しなどの社内で出世するために必要なスキルは重要ではない。転職においては、会社や業種・職種が変わっても持ち運びができる『ポータブルスキル』を高めておくことが重要だ。私が取材した50代の男性も、根回し力が転職活動には生かせないことを自覚し、転職市場における自分の客観的な価値を意識していた」という――。(第5回)

※本稿は、奥田祥子『等身大の定年後 お金・働き方・生きがい』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

オフィスの窓を見ているビジネスマン
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シニア層が転職希望する事務職は“狭き門”

日本では中年期以降の転職市場は成熟しておらず、まして定年後ともなると、求人もかなり少なくなり、需要と供給のミスマッチも生じている。

シニア層の需要がある代表例が、警備員やマンション管理人、清掃業、調理補助などの「現場」の仕事。一方、シニア層が希望するのは事務系職種が圧倒的に多いが、特に60歳以降のホワイトカラー系の転職は、正社員か、嘱託、契約などの非正規社員かにかかわらず、技術系の専門職や有資格者などのスペシャリスト以外は狭き門となっている(ただし、スペシャリストであっても、保持する知識・スキルをアップデートできていることが前提条件となる)。

転職においては、会社や業種・職種が変わっても持ち運びができる、つまり汎用性の高い職務遂行上のスキルを指す「ポータブルスキル(*1)」が重要だが、特にシニアにはこうした能力が不可欠であると同時に、高い専門性も要求される。

定年後の就業継続、さらに再雇用期間の65歳を過ぎても働き続けたいと希望する人が増えるなか、もはや社内での実績や管理職経験だけでは転職のアピールポイントになり得ず、他社や他業種で実績を上げて社業に貢献することが可能な、付加価値の高い人材が求められる傾向にある。何が、転職の成否を分けるのか。成功例を紹介し、シニア人材の転職の新たな可能性について考える。

(注)
(*1)業種や職種が変わっても、どの会社でも通用する職務遂行上のスキルを指す。例えばコミュニケーション能力や課題設定・計画立案能力、情報収集・分析力などが該当する。