「会社を恨んで辞めたくない」と切実に語る
山里さんは実は、入社以来、2年間の企画部を除き、営業畑ひと筋に歩んできた。営業での手腕を買われ、企業合併による大規模リストラを実行するにあたり、急遽人事部に呼ばれ、約3年間だけ人事課長を務めることになったのだ。
同じ社のかつて仕事を共にした元上司、同僚を含めた社員を、会社の命によってリストラせざるを得なかった、この40代前半での経験が、営業部に戻った後も、働くことと、会社との向き合い方に対する考え方に大きな影響を与えたようだ。
2013年、2年前に営業部の次長に昇進した46歳の山里さんは、会社員としての今後の身の振り方についてこう話した。
「幸い、私はリストラを免れて、今やりたい分野の仕事をやらせてもらっています。自分の能力を発揮してチャレンジを続けてきたつもりです。会社には感謝しています。ただ……今がそうであるだけであって、これからどうなるかわからない。そういう危機感を営業部に戻った3年前から抱き始めて、今ますます強くなっているんです。『明日はわが身』というか……。やはり、あの、リストラ実行役を務めた経験が大きく影響しているんでしょうね。
ここまで育ててもらって、やりがいのある仕事をさせてもらった会社を、そのー、何と言えばいいのかな……うん、そう、会社を恨んで辞めたくない、そうならないためにも、早めに動いて前向きな転職で再チャレンジしたいんですよね」
いつもの明るい表情がやや鳴りを潜め、神妙な面持ちで胸の内を明かしてくれた。
部長昇進後すぐに転職エージェントに登録
ただ、ここで終わる山里さんではない。この時のインタビューの最後でこう話して、語気を強めた。
「奥田さん、転職には前職でのポジションと実績も重要だから、僕はまず部長に昇進します。それと同時に転職のための準備を進めて、役職定年の55歳になる前に退職します。そして、今の会社の部長よりもハイクラスとなる転職に、第二のキャリア人生を賭けたい。この場で宣言しますから、どうかしっかりと記録しておいてくださいね! あっ、ははは……」
山里さんらしい、部長昇進と転職へのチャレンジ宣言だった。
宣言した通り、山里さんは2015年、48歳で営業部の部長に昇進した。「次長の時とは比べものにならないぐらいハードで責任が重い」と部長職に就いてから数カ月経た時のインタビューで話し、自信満々だった昇進でも、ポストに就いてみないとわからない職務遂行の難しさを明かした。そして、それ以上に驚いたのは、部長昇進からわずか2、3カ月で転職エージェントに登録していたことだった。