10年間で価格は高くなり、身は貧相になった
庶民の秋の味覚といえば、脂が乗ったサンマの塩焼き――そんな時代は過ぎ去りつつあるのだろう。実際、サンマの消費量は驚くほど減っている。
総務省の家計調査報告によれば、1世帯当たり(2人以上)の年間のサンマ購入量は、2023年が235グラム。10年前の2013年(1342グラム)に比べて約83%の大幅減。平均価格は2023年が100グラム当たり169円で、2013年(同82円)の約2.1倍に上昇している。高い上においしいとは言えず、あまり食べられなくなったというわけだ。
この平均価格はサンマの大きさに関係なく割り出されているのだが、豊洲市場ではサンマの大きさごとに値が決まるため、同一のサイズで比較してみると、さらに大きな違いが出た。
たとえば今年9月上旬、150グラムのサンマは同市場で1kg4000~5000円の卸値が付いた。それが10年前なら1kg300~400円だった(いずれも時事通信調べ)。同じ大きさで見ると、10倍以上高くなっている。ちなみに、市場で今取引されているサンマは「10~20年前なら、小さくて人気がないからほとんど缶詰用だったね」と豊洲の競り人。少々寂しくなるような話だ。
市場では今も「秋のサンマ」は特別な存在
冷凍物や養殖物のほか、国産に限らず、多くの国からも魚が入荷する豊洲市場。魚の季節感が薄れる中で、サンマはいまだに世間的にも「秋」というイメージが強く、数少ない「季節の魚」としての位置を保っている。
今年の初物の一部に、過去最高値がついたのはその表れだろう。冒頭で述べた通り4万2000kgの初物が入荷した中で、魚体が大きく鮮度がとびきり良かった1箱(7匹入り・1kg)には、1kg当たり50万円、つまり1匹7万円という高値がついたのだ。これは築地時代にもつけられたことがない価格だ。まさしくご祝儀相場といえる。
この初値には、仲卸「山治」の初サンマに対する特別な思いが反映されている。山治の山崎康弘社長は「サンマシーズンのスタート。漁師に対する感謝と敬意を表したかった」と、ピカピカの初物を店先に飾り、市場関係者にお披露目していた。
はたして、再び豊漁期がくるのはいつになるのか。今年の「目黒のさんま祭」で出されるサンマもきっと、小さくてすぐに食べ終わってしまうだろう。脂がのって煙がモクモク、ほぐした身と苦いワタを合わせておいしくいただいていた頃を思い出しながら、スリムで淡白な旬の味覚を味わうしかなさそうだ。