ほとんどの人が「付加給付」の存在に気づいていない
付加給付の内容は、組合健保によってさまざま。患者の保険証を見ると組合健保の名称がわかり、パソコンやスマホで検索して直接確認することもできる。
いくら医療費が高額でも、この付加給付があれば大幅に負担が軽減できる。そもそも大企業は福利厚生が手厚い場合が多い。医療機関の看護師やMSW(メディカルソーシャルワーカー)も患者やその家族から、仕事やお金のことで相談を受けた際、組合健保で付加給付があると、ほっと胸を撫でおろすケースも少なくないのだ。
実際、筆者も薬物療法の費用が毎月15万円かかる乳がん患者・A子さんの相談を受けたことがある。A子さんは、医療費があまりに高額なので担当医に治療を続けられないと訴えたという。確認すると、付加給付があって、実質の自己負担額は月2万円で済むとわかり、A子さんは、治療を続けることになった。
なお、付加給付の還付金は、治療を受けた月の2~3カ月後に、別途口座に振り込まれる場合もあるが、給与と一緒に支払われる場合も多い。
A子さんも、すでに還付金が振り込まれていたはずなのだが、付加給付のことは気づいてなかった。「あれ? 今月なんか手取り多いなあ。残業したっけ?」くらいにしか感じていなかったそうある。
それくらい「保険者」というのは医療機関にとっても患者や家族にとっても重要な情報なのだ。ところが、これがマイナ保険証に切り替わると、これらの情報は一切わからなくなる。患者から直接確認する必要が生じてしまうのだ。
前掲のA子さんに限らず、筆者の経験上、病気になるまで付加給付の存在を自覚している人は、ほぼいない。付加給付は、高額療養費付加給付のほか、差額ベッド代や長期入院に対する給付、傷病手当金や出産手当金に対する上乗せなど、さまざまな手厚い給付がある。
付加給付の内容を認識していれば、民間医療保険への加入の必要もなく、ムダな保険料を払わずに済む。だが、組合健保の場合は手続きを保険者側がやってくれるか、向こうから連絡が来るので、ただ待っていれば良い。そんな恵まれた環境にいると、管理意識が鈍感になって付加給付の存在さえ忘れてしまうこともあるかもしれない。
マイナ保険証に関しては、情報漏洩やシステムへの不信感、性急に廃止を推し進める国のやり方に反発する声もある一方、デジタルヘルス化は時代の潮流であり、マイナ保険証への移行はやむなしといえるだろう。
ただし、今回ご紹介したように、マイナ保険証に切り替わることで、大切な情報が得られなくなるケースもある。その結果、大損をしてしまうことになるかもしれないのだ。
重要なのは、病気になる前から、自分が使える公的制度や勤務先の福利厚生などの社会資源をしっかり確認しておくこと。それがあなたの財布と体を守ってくれるのだ。