マイナ保険証のメリットとは?

とはいえ、確実に、現行の健康保険証がなくなる期日は迫っている。にもかかわらず、マイナ保険証の利用率は、6月の時点で9.9%。今年5月に厚生労働省が、18歳以上のマイナンバーカード保有者を対象に実施した調査でも、マイナ保険証に関して28.8%が利用に消極的という結果になっている。

政府は促進に躍起だが普及が進まない理由は、マイナ保険証のメリットが実感できないからだろう。厚労省が掲げるメリットは次の4つ。

① データに基づくより良い医療が受けられる
② 手続きなしで高額療養費の限度額を超える支払いが免除される
③ マイナポータルで確定申告時に医療費控除が簡単にできる
④ 医療現場で働く人の負担を軽減できる

これ以外にも、運転免許証などと統合することで身分証としての利便性の向上、不正利用防止などがある(【図表1】参照)

【図表】マイナンバーカードと従来の健康保険証との比較
※出典=厚生労働省

確かに、①④によって、病院の窓口で、問診票を書く手間が省けたり、過去に処方された既往症の薬の情報などが確認できたりするのは、患者にとって良質な医療を受ける上で重要だ。また②についても、入院やがん治療など高額な医療を受ける場合、事前に、限度額適用認定証を提示する必要がなく、支払いが高額療養費の限度額までになる。

しかし、マイナ保険証でなくとも、すでにこの恩恵を受けている人は少なくない。2021年10月から、一部の医療機関や薬局などに「オンライン資格確認システム」が導入されているからである。これは、マイナンバーカードのICチップまたは健康保険証の記号番号などによって、オンラインで資格情報の確認ができるというシステムだ。

これによって、医療機関では保険診療を受けられるかどうかを即時に確認することができ、レセプト(診療報酬明細書)の返戻や窓口の入力の手間の減少につながっている。つまり、医療機関などがこのシステムに対応していれば、マイナ保険証でなくても、限度額適用認定証を提出する必要はない。

なお、同システムの導入は、2023年4月から原則として医療機関などで導入が義務付けられている。システムを導入した医療機関などの一覧は、厚労省のHPに掲載されている。

※出典:厚生労働省保険局「健康保険証の資格確認がオンラインで可能となります」(第139回社会保障審議会医療保険部会資料(令和3年1月3日)
※厚生労働省「マイナンバーカードの健康保険証利用対応の医療機関・薬局等についてのお知らせ

メリット③の医療費控除については、医療費の領収証を管理・保管しなくてもマイナポータルで医療費通知情報が管理できて、マイナポータルとe-Taxを連携することでデータを自動入力できるのはいいとしても、自由診療や先進医療、ドラッグストアで購入した薬剤費、公共交通機関を利用した通院のための交通費は別途、手入力しなければならないので、面倒な部分も残る。さらに医療費控除は、家族の医療費も合算して申告するケースが多いため、申告者が、家族全員分のマイナンバーカードを預かり、パスワードも教えてもらう必要がある。これも案外骨の折れる作業となりそうだ。

要するに、マイナ保険証にメリットはあるものの数カ月に1回、体調が悪くなったときに病院に行く程度の人が、健康保険証を廃止してまでも、マイナ保険証を使いたいインセンティブとはなりにくいということだ。