マイナ保険証ではわからない患者の「最重要情報」とは?

という現状を踏まえ、報告したいのは、冒頭で触れた健康保険証に記載されている患者の医療費負担を左右する「最重要情報」についてである。繰り返しになるが、この情報はマイナ保険証には記載されていない。

その情報とは「保険者」だ(【図表2】参照)。

保険者とは、健康保険事業の運営主体のことを指す。保険者は、加入者の職業などによって異なる。筆者のような自営業者が加入するのは「国民健康保険」で、住所のある自治体が保険者として健康保険証に記載されている。

【図表】健康保険証のイメージ

会社員が加入する健康保険は「全国健康保険協会」と「健康保険組合」の2種類がある。前者は、いわゆる「協会けんぽ」と呼ばれ、おもに中小企業に勤務する会社員やその家族を被保険者とする。後者は、単一の企業で設立する組合、同種同業の企業が合同で設立する組合などがあり、いわゆる「組合健保」と呼ばれている。おもに大企業に勤務する会社員やその家族などを被保険者とする。なお、公務員なら「共済組合」がある。

つまり、現行の健康保険証を見ると、保険者が確認でき、その患者が入院や手術、治療を受けた場合の医療費を軽減させる公的制度の有無がわかる。

とくに、保険者が共済組合(公務員)や組合健保(大企業など)の場合、健康保険法で定められた保険給付(法定給付)に加え、任意で一定の上乗せ給付である「付加給付」を行っているところも少なくない。

例えば、高額な医療費を軽減できる「高額療養費」は、69歳以下、年収約370万~770万円の一般(区分ウ)の場合、総医療費が100万円かかったとしても、高額療養費のしくみで、自己負担限度額は8万7430円まで抑えられる(【図表3】参照)。3割負担で30万円支払うところが、この額に値引かれる。とても助かる話である。

さらに付加給付があれば、自己負担限度額のハードルは、さらに低くなる。厚労省の指導では、付加給付の額は1人1カ月当たり2万5000円となっており、この額だとすると、自己負担限度額は2万5000円まで。どれだけ医療費がかかっても、保険診療なら月2万5000円の負担で済む、というオトクすぎる仕組みである。9万円近くの負担額がなんと3分の1以下の2万5000円でいいのだ。

【図表】高額療養費制度とは
※出典=『がんとお金の真実(リアル)』黒田尚子(セールス手帖社保険FPS研究所)