新たながんの治療法を取材した『がん征服』
【笠井】がん患者当事者として最初にこの『がん征服』を読み始めたとき、下山さんの前著『アルツハイマー征服』のようなプロジェクトX的な話かと思っていました。なので、衝撃的な驚きがあって。この本は“逆プロジェクトX”ですよね。
【下山】版元からの最初の依頼は、標準療法以降のがんの治療法の開発史を書いてくれということでした。
標準療法というのは、手術、抗がん剤、放射線のことをここでは指しますが、それ以降の治療法ということですよね。
ところが、がんの場合、アルツハイマー病と違って、開発の道筋が単線ではない。様々なアプローチがあり、それぞれのアプローチによって専門家も違う。集まってくるお金の額も桁違いに多い。
そうしたなかで、そもそもの薬の承認や、薬が有効であるということは何かということまで踏み込んでいくと、“逆プロジェクトX”になってしまいました(笑)。
【笠井】ぼくが悪性リンパ腫の告知を受けたのは、2019年11月22日のこと。セカンドオピニオンでは、最も悪いステージ4と明らかになりました。
実は、30年前に伯父が私と同じ悪性リンパ腫になり、告知の4カ月後に亡くなっているんです。当時は悪性リンパ腫に効く薬や治療法がなかった。ぼくも30年前なら、伯父のように死んでいた可能性が高かったんです。
だから、がん治療を受けた当事者のひとりとして、新たながんの治療法を取材した『がん征服』を、とても関心を持って拝読しました。