肥満以外に罹患しやすいタイプ
睡眠時無呼吸症候群が生じるメカニズムは、空気の通り道である上気道が狭くなることが原因です。首周りの脂肪や筋肉が多いと、上気道は狭くなりやすいので、肥満は睡眠時無呼吸症候群と深く関係しています。
ラグビーやアメリカンフットボールなど首周りの筋肉が発達するスポーツ選手にも、睡眠時無呼吸症候群は多く見られます(15)。
肥満でなくても、扁桃腺の肥大や大きな舌、鼻炎・鼻中隔弯曲といった鼻の病気も原因となります。子どもや女性に多いのですが、あごが後退していたり、あごが小さいことも睡眠時無呼吸症候群の原因となり、肥満でなくやせていても、睡眠時無呼吸症候群になります。
睡眠時無呼吸症候群が生じるメカニズムはわかったとして、呼吸が止まる、しづらくなると、人体にどのようなダメージが加わって、いろいろな病気になりやすくなるのでしょうか。キーワードは、低酸素状態いわゆる酸欠と、交感神経の活性化です。
次項では、睡眠時無呼吸症候群がわたしたちの心身に与えるダメージを具体的に見ていきましょう。
交感神経系が働きっぱなしになる
睡眠時無呼吸症候群になると、体や脳の病気にかかる可能性がぐんと上昇するのは、どうしてでしょうか。次の2つのメカニズムが考えられます。
1.交感神経系の活動亢進
2.低酸素血症(酸欠)
睡眠中は、体を休めて回復させる「副交感神経」の活動が優位になります。当たり前ですが、睡眠中はゆったりリラックスできているのが、理想です。
睡眠時無呼吸症候群になると、寝ている間に何度も首を締められて窒息している状態を、1日6~8時間・365日続けていることになります。こう表現すると、ずいぶんつらそうで、よくこれで眠っていられるなと思われるでしょう。とてもではないですが、リラックス役の副交感神経が優位になれるような状態ではありません。
かわりに、人体を自動車にたとえればアクセル役にあたる、交感神経系が活発になります。交感神経が活発にはたらいているときには、血管を収縮させ、心拍数を高め、血圧を上昇させます。本来は覚醒しているときだけ活発であるはずの交感神経が、睡眠中に活動が高まることになります。
とくに交感神経が活発になり、呼吸筋の緊張も低下するレム睡眠では、この傾向が顕著になります(16・図表1)。眠っている間に本来はお休みになっているはずの交感神経の活性が高まることで、自律調節機能のバランスが崩れ、ホルモン分泌の異常や体内の炎症反応の亢進などが生じてきます。
これらの異常が1日の3分の1、しかも毎日続けば、人体にガタがきてもおかしくないでしょう。
まとめると、睡眠中の呼吸機能は、覚醒時に比べれば落ちてしまいます。健康であれば問題はないのですが、前述の通り睡眠時無呼吸症候群という病気は相当多いと見積もられています。
睡眠時無呼吸症候群を放置すると、脳も体も酸欠状態になり、細胞のミトコンドリア、大脳皮質の白質が壊れていきます。睡眠中にお休みすべき交感神経系も、活発なままです。疑わしければ、睡眠医療の助けを求めるべきです。
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12
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15
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