帳簿上の利益が増えているだけ

第二に考えられるのは、円安によって企業利益が増大していることだ。

トヨタ自動車の株価が、2024年初から3月5日までの期間に2702円から3729円へと1.38倍に上昇したのが、その典型例だ。これは、東京エレクトロンの上昇率とあまり変わらない。また、商社の株価も上がっている。三井物産の株価は、年初の5405円から6816円へと1.26倍になった。

円安で輸出産業を中心として企業利益が増大するのは、従来からあったメカニズムだ。それがいまの円安局面でも起こっているに過ぎない。

円安になって円ベースの輸出額が増えても、ドルベースでは変わらず、鉱工業生産指数に見られる実体的な生産活動は増加しない。他方で、円安は、国内物価を引き上げ、日本人を貧しくする。だから、望ましい現象とは言えない。

2022年以降の円安の進展は急激だったために、輸入価格上昇分の転嫁が難しいと考えられていたのだが、転嫁に成功して、利益が増大した。これを反映して株価が上昇している可能性がある。

ところが、トヨタ自動車などの大企業以外の企業を見ると、必ずしも大幅な利益増とは言えない。法人企業統計調査で営業利益のデータを見ると、図表1、2のとおりだ。最近の時点で利益が増大しているのは事実だ。しかし、製造業の大規模企業(資本金10億円以上)をとっても、それほど顕著な増加とは考えにくい。

【図表1】営業利益の推移(製造業、資本金10億円以上)
【図表2】営業利益の推移(非製造業、資本金10億円以上)

しかも、企業利益の増加は、アメリカのように新しい産業や新しい企業の登場によって生じているわけではない。産業構造が古いままで、円安によって帳簿上の利益が増えているだけだ。2000年代頃から続いてきたパターンを繰り返しているだけである。

円安が株価急騰の原因とは言い難い

円安が株価上昇に寄与するルートとしては、もう一つのことも考えられる。それは外国人投資家が、為替差益を目的に対日投資を行なうことだ。

現在の円安は行きすぎであるとすれば、将来円高になる可能性がある。そうなれば、外国から日本へのヘッジなしの投資は、為替差益を得られる。

しかし、為替レートが将来どのように変化するかを予測することは、不可能だ。アメリカが利上げを停止して引き下げに転じ、日本が金利を引き上げる結果、日米金利差が縮小して円高になることが十分に考えられる。ただ、それがどの程度のものか、いつ起こるかを知ることはできない。

はっきりしているのは、円安の効果として上に挙げた2つは、矛盾することだ。仮に将来円高になれば、為替差益は得られるかもしれないが、日本企業の利益増はストップする。

つまり、円安が株価急騰の原因であるとしても、その基礎は、きわめて脆弱なものだということになる。また、海外からの投資が増えれば円高になるはずだが、実際には円安が進んでいる事実と矛盾する。