実体経済活動の裏付けがない
すでに見たように、アメリカでは1992年からのおよそ30年で、ダウ平均株価が12倍になった。年利で言えば、約8%だ。新しい産業群と企業群が誕生し、目覚ましく成長しているからだ。実際、名目GDPは、1990年から現在までの間に、約4倍に増えた。
つまり、アメリカの株価の上昇は、2つの実体的な要因による。第一は、GDPの成長。第二は、産業構造の高度化。このように、株価の上昇には実体経済活動の裏付けがある。
それに対して日本はどうか? 1990年から現在まで、名目GDPは、ほとんど不変だ。また、新しい産業も生まれていない。1980年代の後半に、バブルによって株価が高くなりすぎ、それが崩壊し、そして、やっとバブル崩壊前の水準を超えたということだ。
日経平均株価は、1992年に2万円台を割り込んだ。その時の株価と比較すると、現在の株価は約2倍だ。この間の平均年利は2%に過ぎない。その後に株価が非常に低くなった時点をとって現在と比較すれば、利回りがもっと高くなる場合もある。
しかし、そのときから現在まで名目GDPはほとんど増加していない。だから、株価が上昇したのは、経済が全体として目覚ましく成長したからではない。また、新しい産業が登場したからでもない。
株価が上昇した主要な理由は、2013年以降の大規模な金融緩和によって円安が進んだことだ。円安とは、ドルで評価した日本人の労働力の価値を低めることだ。
つまり、日本は、労働力を安売りして、企業利益を増やしてきたのだ。
新しい産業を作ったり、技術を開発した結果、競争力が高まったわけではない。
株価急騰の理由
日本の平均株価は、いまだに1990年頃とほぼ同じ水準だ。それに対して、2024年のアメリカの平均株価は、1990年頃から12倍になったのだから、日本とアメリカでは、およそ35年の差があると考えてもよい。
今後アメリカでは労働力が増え、資本蓄積が進み、新しい技術とビジネスモデルが導入されて、経済が成長する。だから、株価も上昇する。
それに対して日本では、労働力が減り、新しい技術やビジネスモデルが導入される可能性は低い。そのため今後、経済を成長させたり、株価を上昇させたりする要因がない。
株価を上昇させるには、金融緩和を続けて、円安をさらに進めることしかない。しかし、それでは、日本の労働力の国際的な価値はより一層低下することになる。
最近の株価の急騰は半導体関連企業の株価上昇によるところが大きいが、これ以外にも要因があるとの見方がある。
第一に、日本企業が変革に成功したため、世界からの信頼を集めるに至ったという見方がある。
海外からの対日投資が増えているのは、事実だ。しかし、それは中国経済の落ち込みによって、これまで中国に向かっていた投資が日本に来たという側面が大きい。いわば、「敵失」だ。ただ、「中国がだめだから、日本」という見方が正しいのかどうか、疑問だ。中国に代わる投資先はアメリカであって、日本ではあるまい。
ところが、2024年になってからの株価上昇率は、前述のように、アメリカより日本のほうがずっと高い。これは、理解に苦しむ現象だ。