日本の薬物療法の3つの大きな問題点
日本の薬物療法は、薬の出し方にも問題があります。診断についてはDSM(精神疾患の診断・統計マニュアル)およびICD(国際疾病分類)という国際的な診断基準ができてからはだいぶ改善されましたが、今でも次の3点がよく指摘されます。
*すぐに薬を出す
なぜ、日本の医者がすぐに薬を出すかというと、医局の教授たちに「正常値主義」をみっちり教わるからです。異常値が出たら薬で正常値にしないといけないと考え、医局で習った通りのことを行います。
医局に所属している限り、自分の判断で勝手に別の治療を行うことは許されません。
それに逆らう医者はいません。なぜなら、「逆らわない人間」が入試面接の時点で選ばれているうえ、医局内での出世を考えたら、逆らわないほうが賢明だからです。
医局で習っていない専門外のことは、『今日の治療指針』という医者なら誰でももっている診療ガイドライン(いわゆるアンチョコ)を見て、その通りの薬を出すのが通例です。
*一度に複数の薬を出す
アメリカの標準治療の考え方では、必要に応じて薬をたくさん出すことは否定していないものの、基本的に併用はしません。
これに対して日本の医者の多くは、薬を一度に何種類も出します。うつ病の患者さんに3種類以上の薬を出すこともしばしばです。私からすると、何を考えているんだと正直、驚きます。
*長く処方し続けることが多い
薬一辺倒で治療をしている日本では、薬を飲んでいる間は症状が抑えられていても、薬をやめると、またぶり返して再び薬を飲み始める、というケースが多く見られます。
そのため、精神科医の中には「薬を飲んでいる間は症状が良くなるなら、一生飲み続けてください」と当たり前のようにいう医者もたくさんいます。そんなことが可能なのは、日本では国民皆保険制度により、誰でも1~3割の自己負担で医療を受けられるためです。
たとえばアメリカでは、保険会社と個人的に高額な契約をしていない限り、保険会社が払ってくれる範囲を超えると診療費と薬代を全額自費で支払うため、大金持ちの患者さん以外は、薬を一生飲み続けるのは困難です。だから、投薬が必要な場合でも、カウンセリングなどを併せて行い、薬をやめられるようにもっていく治療が行われます。
理由はどうあれ、アメリカのような治療が、本来の精神医療のあるべき姿だと私は思っています。