立場や収入に関係なく、食はみんなの“共通言語”

朝定を食べ終え、会社に戻った僕らはそのまま会議室に直行する。

そして、蠣田さんのレクチャーが始まった。

「営業マンは松屋をはじめとした飲食店、特に大手チェーン店の情報に敏感であるべきです。理由は、それらが“みんなの食卓”だからです。社長も役員も部長も新人も、立場や収入に関係なく、みんなが行くでしょう?」

確かに、僕の信頼する上司・鶴田さんも一時期、松屋のシュクメルリ鍋定食にハマっていた。外回りに同行した際、よく奢ってもらったものだ。

「つまり、メシの話は、ビジネスマンの共通言語なんです。初対面の取引先など、パーソナルな情報がわからない相手と話すときでもネタにしやすい。例えば、午前中のアポイントに行くとします」

ビジネス講座の講師のように、蠣田さんは続ける。

「その場合、商談前後の雑談で食事の話題になるかもしれませんよね。そこへ小鉢カレーのような松屋ネタを投入すれば『ちょっと早めのお昼は何にしよう』と考えている先方に、有益な情報を提供できます。『この人はなかなかアンテナが高い』『気が利く人だ』と、評価が上がるかもしれません。『同じ目線で話せる人だ』と安心感を与えることも……」
「でも、先方が吉野家派だったらどうするんですか?」
「多分に想定されるケースですね。もちろん、吉野家、すき家、なか卯など、主要な牛丼チェーンはもれなくチェックしておくべきです。かつ牛丼で知られる新宿のたつ屋や、牛丼太郎の残党系である丼太郎といった“インディーズ牛丼”まで押さえられたら完璧ですね。他にも、立ち食いそばやファミレスもカバーしたいところです」

そんなにいろいろな店舗があったとは。たかが牛丼などとは、あなどれない。

毎日メニューをチェックすれば、有益な情報が得られる

「食の話の中でも、ビジネスマンの日常食であるチェーン系グルメは、鉄板ネタの一つですから。営業マンとして最低限の知識です」
「なるほど。でも、全チェーンの情報を押さえるのは、かなり大変そうですけど……」
「そうでしょうか? 一日3回、最低でも1回は食事をしますよね。その度にインプットすればいいわけですから、さほど難しくないと思いますよ」

確かに毎食でなくても、営業職なら一日1回ぐらいは外で食べているだろう。

吉野家
写真=iStock.com/Kokkai Ng
※写真はイメージです

「毎日、細かくメニューをチェックしていたら、小鉢にカレーが追加されていることにも気づくし、実はソーセージエッグが単品で頼めることだって発見できるでしょう。そういう積み重ねで、情報や知識を増やしていくのです」

食事のときもインプットを欠かさないとは……。朝定エージェント恐るべし。

「多くの人は、自分が食べたいメニューしか気にしていない。ですが、それでは有益な情報を見逃してしまいます。結果として、教養も身につきませんよ」