名刺には「一日三食、朝定が食べたい」

折り目正しくスーツを着こなす蠣田さんは、至って真面目なビジネスマンに見える。

朝定エージェントという、妙な肩書を除けば。

「はじめまして。蠣田と申します」

差し出された名刺にもちゃんと「朝定エージェント」とある。脇には、「一日三食、朝定が食べたい」と添えられていた。

「ところで真部さん、朝ごはんは召し上がりましたか?」
「いえ、今朝はバタバタしていて食べそこねちゃって」
「じゃあ、今から一緒に食べに行きましょう。おすすめの“朝定”があるんです」
「えっ! でも、もう10時半ですよ。そろそろランチの時間じゃあ……」

食い気味に、蠣田さんが言葉をかぶせる。

「10時半は、まだ朝ですよ。なぜなら、松屋の朝定の提供時間が11時までだからです! ちなみに、朝定の開始時間は午前5時ですね。つまり、朝というのは5時に始まり、11時に終わるのですよ」

整った身なりに丁寧な話し方。ちゃんとしたビジネスマンに見える。でも、この人もまた、突拍子もない持論をぶつけてくるタイプのようだ。

一体、朝定の何が蠣田さんの心を捉えているのだろう。

今どきの“みんなの食”事情とは

蠣田さんに連れられて、僕たちは松屋に来た。「みんなの食卓でありたい」のキャッチコピーで知られる牛丼チェーンだ。

蠣田さんは会社のすぐ近くにある店舗でなく、反対方向の少し離れた店舗に行こうと言い出した。大手のチェーン店だからどこも同じなのに、なぜだろう。

それぞれ食券を買い、カウンター席に並んで座る。僕は焼鮭定食、高山と蠣田さんはソーセージエッグ定食をチョイスした。

焼き魚定食
写真=iStock.com/kuppa_rock
※写真はイメージです

「おすすめの朝定って、松屋のソーセージエッグ定食だったんですね」
「もちろん、ソーセージエッグ自体もおすすめです。ですが、ポイントはこの『選べる小鉢』です」

そう言って、蠣田さんは小鉢の中身をご飯の上にかける。カレーだった。

「いいですか、真部さん。松屋の朝定はメインのおかず以外に、選べる小鉢がついてきます。通常のラインナップは、納豆(ネギ付)、とろろ、冷やっこ、プレミアムミニ牛皿の5種類ですが、今はちょいがけのカレーが加わっている。実はこれ、店舗限定の実験的な試みです。これを頼まない手はないですよ」

そう言われると、途端に蠣田さんのカレーが羨ましくなる。高山の小鉢もカレー。僕だけ、冷やっこだ。定食のチョイスにしろ、小鉢の限定情報にしろ、何だか完全に出遅れている気がした。

「営業マンなら、これくらいは当たり前に押さえておきたい情報です。松屋フーズの公式ツイッターでも発信されていましたからね。今すぐ、松屋の公式アカウントはもちろん、『【公式】松屋カレー部』のアカウントをフォローしてください」

そんなアカウントがあるとは知らなかった。

「はい、フォローしました。けど、営業マンと松屋の朝定にどんな関係が?」
「それはそうと、まずは食べましょう。11時前は朝定の駆け込みラッシュで店が混雑します。さっと食べて出るのがマナーですよ」