「3つの要素のバランス」によって起きる
まずは、傷に感染を成立させるだけの数の「細菌数」が必要となります(条件が合ってしまえば、細菌数は少量から爆発的に増えます)。
さらに感染を成立させるだけの「創環境」が必要(適度な温度や湿度と栄養が求められる)。
もう1つおまけに、「防御力」が低下している状態が必要(細菌と戦う自分自身の免疫が弱っていることが必須)。
この3つの要素が細菌側に有利に揃った場合に創部、つまり擦り傷や切り傷、そして手術創の細菌感染が成立してしまうことになるのです。
消毒したほうが細菌数は減少
では3つのうち、どれか1つだけでもなくしたらいいのではないかしら?
その発想でおそらく20~30年前までは、医学界でも創部の消毒はきっちり行なわれていました。傷を消毒するという行為は、前述した3要素の中の「細菌数」を減少させることを目的としていたのです。
では本当に、この発想は正しかったのでしょうか。それに答えを出した1980年代の有名な実験と論文がありました(※1)。
傷の面に細菌を散布した上で、ヨード系消毒液で消毒した場合と生理食塩水だけで洗浄した場合の細菌の数を計測したものです。
この場合はもちろん消毒液で消毒した場合のほうが、傷面の細菌数は優位に減少していました。
※1 Rodeheaver G, Bellamy W, Kody M, Spatafora G, Fitton L, Leyden K, Edlich R. Bactericidal activity and toxicity of Iodine-Containing solutions in wounds. Arch Surg.1982 Feb;117(2):181-6.doi:10.1001/archsurg.1982.01380260051009.PMID:7034678.