安倍晴明が道長に言った台詞の意味

一方、弟の隆家は、このところ伊周と対照的に描かれている。第29回では、「藤原の筆頭に立つ」と意気込む伊周に、「兄上の気持はわかるが、左大臣(註・道長)の権勢はもはや揺るがぬぞ」と諭した。

第30回でも同様だった。伊周は定子が忘れられない一条天皇(塩野瑛久)に、「そのように暗いお顔をなさらないでくださいませ。定子様が悲しみます。『枕草子』をお読みくださり、どうか華やかで楽しかった日々のことだけをお思いくださいませ」と伝える。定子を利用して天皇を操縦しようとしているようで、その場にいる隆家は、兄を怪訝な目を向けた。

さらには道長のもとを訪れ、「兄には困ったものでございます。帝のお気弱につけ込んで」と伝え、「私は過ぎたことは忘れるようにしております。出雲へ配流となったときの無念よりも、亡き姉への思いよりも、先のことが大事でございます。恐れながら、帝にも前をお向きいただきたいと存じます」と話した。

第20回「望みの先に」(5月19日放送)で、花山法皇(本郷奏多)に矢を放った伊周と隆家に厳しい処分がくだった際のこと。陰陽師の安倍晴明(ユースケ・サンタマリア)が道長に、「隆家様は、いずれあなた様の強いお力となりまする」と告げ、伊周については「あなた様次第でございます」と答える場面があった。

兄弟の将来を暗示していたが、それが具体的に描写されるようになってきた。

根に持つ兄と好戦的な弟

隆家は兄の伊周より5歳ほど年下だったが、正暦5年(994)にわずか16歳で従三位になり、公卿の仲間入りをしている。試練を知らずに出世した点は兄と同じだったが、うじうじしてなにかと根に持つ兄に対し、弟はまっすぐで好戦的で、性格は対照的だった。

2019年12月7日、中国・上海で開催されたY-3のプロモーションイベントに出席した俳優の竜星涼。
写真=VCG via Getty Images/ゲッティ/共同通信イメージズ
藤原隆家を演じる竜星涼。2019年12月7日、中国・上海で開催されたY-3のプロモーションイベントに出席した。

花山法皇に矢を射かける以前のこと。『大鏡』にはこんな話が載っている。隆家は法皇から「いくらお前でもわが家の前は通り抜けられまい」といわれ、日を改めて勝負することになった。隆家は頑丈な牛車と選り抜きの牛を用意し、数十人の従者とともに出かけ、突進したという。結局、法皇の万全の防備を突破できなかったというが、こうしたいいがかりに正面から答えるのが隆家らしい。

こういう性格だから、兄の伊周に相談されると、安請け合いし、花山天皇に矢を放ってしまったのだろう。長徳2年(996)正月、故藤原為光の屋敷の前で、伊周と隆家の従者が花山天皇に矢を放ち、2人の失脚につながった事件である(長徳の変)。

栄花物語』にはこう書かれている。伊周は為光の三女を恋人にし、花山法皇は四女に交際を迫っていた。だが、伊周は花山も三女をねらっていると思い込み、弟の隆家に相談したところ、隆家は「自分にまかせろ」といって、従者をしたがえて待ち伏せ、法皇を襲撃してしまった――。