清少納言とはどんな人物だったのか。歴史評論家の香原斗志さんは「生まれた年も、宮仕えをはじめた時期もわかっていない。彼女が描いた『枕草子』は、ただ内容が優れているだけでなく、定子を盛り立てる政治的な役割を担っていた」という――。
『枕草子』が持っていた政治的役割
清少納言はなぜ『枕草子』を執筆し、宮廷社会に広めたのか。彼女は亡くなった皇后定子と、彼女が産んだ一条天皇の第一皇子、敦康親王の存在意義について、公卿たちに再確認させようとした可能性がある。
NHK大河ドラマ「光る君へ」の第29回「母として」(7月28日放送)には、そんな『枕草子』の特徴や、政治的な役割について理解できる場面が複数あった。
まず、ききょう(ファーストサマーウイカ、清少納言のこと)がまひろ(吉高由里子、紫式部のこと)の家を訪問し、のちに『枕草子』と呼ばれる文章を読ませた。まひろはその内容に感心しつつ、「私は皇后さま(註・高畑充希が演じた定子)の影の部分も知りたい」と伝えたが、ききょうは「皇后さまに影などないし、あったとしても書く気はありません。華やかな姿だけを人々の心に残したい」と拒んだ。
これまで「光る君へ」では、なんとなしに交流を重ねるように描かれてきた2人の差異が、はじめて明確に描かれたといえようか。それは『枕草子』と『源氏物語』の差異にもつながる。
続いて、ききょうは定子の兄である藤原伊周(三浦翔平)を訪ね、『枕草子』を渡したうえで、「皇后さまのすばらしさをみなの心のうちに末永くとどまるように、これを宮中に広めていただきたい」と頼み込んだ。それが、父の道隆(井浦新)に端を発する中関白家の再興につながると悟った伊周は、ききょうの望みを受け入れた。