「操縦する人と指示する人が別」という難しさ

この運航票は、以前は「ストリップ」という帯状の小さな紙片でしたが、現在では混雑空港を中心に電子化されており、手元の画面上に表示されるようになっています。管制官の手元には、常に現在交信している、あるいは、これから無線に入ってくるであろう飛行機の運航票が並んでおり、これも横目で確認しながら、パイロットと交信を行ないます。

つまり、聴覚、視覚をフルに使い、リアルタイムで移り変わる情報をインプットし、得られた情報から適切な判断をくだすことが求められる過酷な業務なのです。

これは、飛行場管制だけでなく、すべての管制業務においても同様です。

管制の難しさを考えるとき、「自分で操縦しているわけではない」ということは、やはり重要なポイントの1つだと思います。操縦するのはパイロット、指示を出すのは管制官――両者がこの関係である以上、どうしても、どのような指示を管制官が出し、その指示を受けたパイロットがどう操縦を行なうかが、運航に影響を及ぼすことになります。

飛行機を操縦するパイロット
写真=iStock.com/ViktorCap
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パイロットや機体の「個性」はさまざま

たとえば、管制官が離陸にかかる時間をどのくらいと見るか。仮に90秒と見積もれば、到着機Aと次の到着機Bのあいだに90秒の間隔があれば、出発機Cを出すことができます。この間隔が100秒あれば余裕ですが、80秒ならあきらめて出発機Cを到着機Bのあとに回さざるを得ません。

しかし、実際に離陸にかかる時間は、さまざまな要因で異なります。航空機の重量や天候などの環境にもよりますし、パイロットがテキパキと動いてくれて最短時間で離陸してくれるタイプなのか、慎重なタイプなのかでも、かかる時間は違ってきます。

航空会社や国籍でも異なります。日本の航空会社のパイロットは、ある程度、空港の事情を理解しているのでキビキビと動いてくれますが、外国の航空会社には「急ぐ意味がわからない」といわんばかりのマイペースなパイロットもいます。それもまた、運航の最高責任者としては正しいのですが……。

飛行機のパフォーマンスによっても、離陸の所要時間は異なります。飛行機の大きさ、重さ、乗客の数、燃料の量、そんなことも計算に入れながら、管制官は離陸所要時間を予測します。「この便は長距離国際線だし、地上走行の動きを見るに“ゆっくり系のパイロット”。ふだんより離陸には時間がかかるだろう」などと判断するわけです。