夏休みの旅行先にはどこを選ぶべきか。歴史評論家の香原斗志さんは「猛暑の中でも快適に城めぐりができる城郭はある」という。香原さんが選んだ「いま訪れるべき日本のお城ランキング」2024年夏編をお届けする――。

今年の夏に訪れてみたい7つの城

夏休みこそ城をめぐろう、と考える人は多い。親子連れで城めぐりをするにも、いちばん時間が取りやすい時期だと思うが、問題がないわけではない。

第一に暑い。とくに今年の猛暑は城めぐりにはきつく、広大な城域をくまなく歩きまわろうとすると、それだけでバテてしまう。第二に、夏は草木が繁茂して石垣などがよく見えないことが多い。生い茂った木が邪魔で建造物を写真に収めにくいこともある。

第三に、山城などでは危険がともなうこともある。蚊に刺されるくらいならともかく、スズメバチやマムシに襲われる危険性もあり、クマが出たらシャレにならない。

そんなことも考慮したうえで、今年の夏に訪れてみたい城を7つ選んでみた。

第7位は安土城(滋賀県近江八幡市)。言わずと知れた、織田信長が天下を見据えて築いた城である。城郭全体を覆うように石垣が築かれ、その石垣上に5重の天主という高層建築がそびえた。そんな城は安土城以前にはなかった。

標高198メートルの安土山は、夏場には登りやすいとはいえない。だが、南正面から登る大手道は発掘調査の結果、山上に向かって直線的に180メートルも続いていたことが確認され、現在、石垣や石段が往時の姿に整備されている。開放的なので、夏場でも比較的登りやすい。この直線的な坂道の先に、天主がそびえて見えるように計算されていた。

滋賀県・安土城への石段
滋賀県・安土城への石段(写真=Philbert Ono/CC-BY-SA-3.0-migrated/Wikimedia Commons

新幹線の駅前にある名城

大手道を登ると、黒金門跡から先にはいまも壮麗な石垣が残っている。そして、山上の天主台に建てられた5重で、内部は地上6階地下1階だった天主は、金箔瓦が葺かれ、4重目が朱色、5重目は金色に塗られ、内部は金碧極彩色に仕上げられていた。

昨年から20年計画の「令和の大調査」がはじまり、すでに天主台を人為的に崩したような跡が見つかっている。滋賀県によれば、織田家から政権を奪取した豊臣家が安土城を廃城にしたことを示すために、意図的に行った「破城」の可能性があるという。今後、安土城の謎が大きく解明する可能性もある。

いま訪れておくと、解明が進んだときに、どこの場所のなにを指しているのか、イメージが湧きやすいという利点もある。

第6位には福山城(広島県福山市)を挙げたい。この城が築かれたのは、すでに一国一城令や武家諸法度で築城が制限されていた元和8年(1622)だが、徳川家康の従兄弟にあたる水野勝成は、西国の大名を牽制するという重要な任務を負い、近世城郭としては事実上最後の大規模な築城が許された。

それだけに5重5階の天守のほか、7棟の三重櫓、16棟の二重櫓が建ち並び、10万石の大名の城なのに、30万石の大名の城のような威容を誇った。戦前まで残り、天守の完成形といわれた合理的な構造の天守は、昭和20年(1945)8月8日の空襲で焼失し、昭和41年(1966)に鉄筋コンクリートで再建された。だが、残念ながら、焼失前の姿とかなり違ってしまっていた。

筆者撮影
改修された福山城天守

 

しかし、令和4年(2022)の築城400年に向けた改修工事で、防備が手薄な北側の壁面に張られていた、日本の城郭で唯一だった鉄板も再現され、戦前の雄姿に近くなった。伏見城から移築されて現存する伏見櫓と筋鉄御門も重要だ。とくに前者は古風で格調高く、豊臣秀吉の時代を思わせる。

新幹線の駅前にあり、酷暑のなか訪れるには交通の便はこれ以上望めない。