原爆計画の総責任者と外科医による「疑惑の通話記録」

8月25日、「マンハッタン計画」の総責任者であったグローブス陸軍少将は、オークリッジ病院の外科医チャールズ・リー陸軍少佐に電話をかけ相談している。その通話記録が残っている。

グローブス「報道はこうだ。『ウランの核分裂により生じた放射線は、次々と人命を奪い、広島の復興作業者にも多様な障害をもたらしている』」
リー「多分こんな話がいいでしょう。放射能なら被害はすぐには出ない。じわじわ出るんです。被爆者はただやけどしただけですよ。やけどもすぐには気づきません。じわじわ出るんです。少し赤くなって、数日したら水ぶくれが出て、皮膚が崩れたりしますね」
グローブス「次はまたやっかいな話だ。『数日後に不思議な症状で死んだ被害者は、米国の大規模核実験の犠牲者と死因が同じだろう』とラジオ東京が報じた。事実ならとんでもない話となる」
リー「お偉方のどなたかに否定声明を出させたらいかがですか?」
グローブス少将(左)とオッペンハイマー博士、1942年
グローブス少将(左)とオッペンハイマー博士、1942年(写真=アメリカ合衆国エネルギー省/PD-USGov-DOE/Wikimedia Commons

わざと「放射線の危険を知らなかった」という記録を残したか

グローブスは、この通話記録を「あえて残した」のだと歴史学者のジャネット・ブロディ教授は指摘している。教授は長い間、核兵器の放射線をめぐる組織と個人の関わりを、機密文書や関係者の取材メモなど膨大な記録からたどり、追跡、研究し、真相を求めてきた。通話記録を残すことで、原爆投下を指揮したグローブスは、原爆の放射線に関する知識を持ち合わせていなかったという事実を明らかにできる。その証拠をでっち上げようとした思惑が見えるというのである。

グローブスが放射線の知識を持ち合わせながら原爆投下を指揮したことが明らかになれば、投下によって戦争を終結させたという彼の高い評価は一変してしまう。国際法に違反する非人道兵器を使用したという非難に変わりかねないのである。

そうとられないためには、トリニティ実験では残留放射線の危険性について科学者からレクチャーを受けていながら実はそのことをよく分かっていないように見せた方がいい。「マンハッタン計画」の機密資料と通話記録を文字に起こしたメモのすべての保管責任者でもあったグローブスは、通話記録が残されることもよく知っていたのである。

ここから、グローブスの新たな闘いが始まる。