「小説を読むように」図面を見た
(前編から続く)
田中さんが起業したのは54歳のとき。それまでも長年「精密機械部品検査」の世界に関わってきたものの立場はパートで、まわりは女性ばかりだった。社長として仕事先に行くようになると、今度は逆に男性がほとんど。「女だから、こんなことはわからないでしょ」と言われたり、意地悪な質問をされたり。馬鹿にされていると感じることが多かった。仕事からの帰り道に、ぼろぼろと泣きながら車を運転したこともあった。
「それはもう悔しかった。なにがなんでも全部覚えようと思って、夜な夜な小説を読むように図面を見ました」
図面ファイルを作り、わからないことをしらみつぶしに学ぶうちに、図面を見ただけで製品がぱっと頭に浮かぶようになった。それだけではない。「どのピンセットをどう持てば製品を落とさずに検査できるか」まで考えられるようになった。
「やっているうちにだんだん『図面、おもしろいな』と感じて、楽しくてしかたがなくなったんです」
いまでは、取引先企業から意見を求められるまでになった。田中さんの次女で、泰交精器の専務でもある前田梨紗さん(37)は「私も取引先によく同行するのですが、社長は本当に信頼されているのがわかる。自分でその地位を築きあげてきたのはすごいな、と思います」。
荷姿の美しさにもこだわり
会社を立ち上げたときには、検査するのにベストだと思う照明の配置や照度、配列などにこだわった。作業机は既製品には良いと思えるものが見つからず、大工さんに作ってもらった。パートで働いていたときに「こうしたらもっと仕事がしやすいのでは」と思っていたことばかりだ。
「荷姿」の美しさにも注意を向ける。製品の向きを揃え、ラベルの向きや長さにも気をつかう。「ぱっと開けた時に『きれいだね』と思ってもらえることを目指してきた。ガチャガチャしていると、どんなに綺麗な製品でも汚く見えるんですよ」