ウイスキーの違いはどこからくるか
コンビニの冷蔵ケースを見てうなだれた。「あ、残念。売り切れだ……」
話題のハイボール缶。その人気は、裾野が広い。「角 ハイボール缶」の350mlや500ml缶は、ワンコインでお釣りがくる。しかも「山崎」「白州」と名の付くプレミアムものも量販店に並ぶことがあり、SNSには「買えた」「買えない」の文字が躍ることも珍しくない。
そんな争奪戦も手に入れると忘れてしまう。確かに違うからだ。ウイスキーを炭酸水で割っただけなのに、香りが立って、余韻が伸びる。いったい、この「違い」はどこからくるのだろう――。
多くの人は、原酒の良し悪しだと言う。あるいは、樽が違う、水が違う、設備が違うとも。もちろん間違いではない。だが、ほんとうの答えは、もう少し、人間臭い。
最後の決め手は、“人”のチカラらしい。嗅覚、そして官能力。つまり、香りと味の違いを見抜く“鼻と舌の職人技”が、ウイスキーの味を仕上げているという。
そんな職人たちが集結している場所がある。日本最古のモルトウイスキー蒸溜所、サントリー山崎蒸溜所だ。ブレンダー室で主席ブレンダーを務めるのが、輿石太さん(62歳)。2025年、「卓越した技能者(現代の名工)」として厚生労働省から表彰も受けた、名ブレンダーである。
さっそく山崎へ向かった。
山崎の水から生まれるやわらかさ
京都と大阪をまたぐ天王山のふもと。JR東海道本線の山崎駅から10分ほど歩くと、森に囲まれた煉瓦造りの建物が見えてくる。全敷地、約11万平方メートルに及ぶ山崎蒸溜所。1923年、創業者の鳥井信治郎氏が日本で初のモルトウイスキーづくりに選んだこの地は、もともと水の良さで知られる場所だった。駅の近くには、千利休の茶室「妙喜庵」も残っている。
「水がやわらかいんです、とても。ウイスキーの味にやわらぎを与えてくれるのが、この山崎の水です」
開口一番、輿石太さんは、ウイスキーを言葉にしてくれた。
ウイスキーは、大麦などの穀物を発酵させ、蒸溜した原酒をブレンドしてできあがる。160万樽にも及ぶ多彩な原酒をブレンドして、いかに求める味をつくり出すか。その役を担うのが、ブレンダーだ。
「ウイスキーの中味の設計者、と言ってもいいかもしれません」
そのために1日100から200種類の原酒を、来る日も来る日もテイスティングする。繊細な香味の違いを評価し、判別し、原酒の個性を見極める。試作をくり返しながら配合を決め、目指す味をつくりだす。こうした近道のないテストブレンドから、1つの商品ブランドが生まれてくると聞き、思わず訊ねた。なぜ、そんなにも原酒の種類が必要なんですか――。すると輿石さんは、たとえ話をしてくれた。