永谷園の新商品「カップ入り お茶づけ海苔」と「カップ入り さけ茶づけ」の発売日が決まった。その後発売1カ月で220万食突破という数字は、計画比369%に達したという。さらに1年あまりで1200万食を記録。同社マーケティング本部の商品企画マネージャー栗原紘明さんは「社内から試作品に“ダメ出し”を受けた日のことは忘れられない」という――。(前後編の後編)

「永谷園のお茶づけをちゃんとつくってくれよ」

「コレ、違うだろ……」

発売日を数カ月後に控えた、ある日の社内プレゼン。永谷園マーケティング本部の栗原紘明ひろあきさん(40歳)が、営業担当に新商品の説明をしたところ、すかさずダメ出しを受けたという。「カップ入り お茶づけ海苔」「カップ入り さけ茶づけ」、2つの新しい商品だ。

「発売日を、2024年9月9日に決めたんです。商品自体は試作中でしたが、同時進行で営業担当者にイメージを説明しました。手持ちの簡易なカップにフリーズドライのお米とお茶づけ海苔を入れて、『こんなイメージです』と。すると『これが永谷園のお茶づけか?』と即座にいわれました。プライドを持ってくれよ、歌舞伎の定式じょうしき幕のデザインを誇る、永谷園のお茶づけをちゃんとつくってくれよ、ということです」

ハッとしたという栗原さん。同本部の石川拓也たくやさん(43歳)は、東京の本社と工場を行き来しながら、フリーズドライ(FD)のごはんをお茶づけ用に究めようとしている。同じく小田友紀子ゆきこさん(36歳)も日々試食を重ねている。みなが発売日に向けて、走り続けていた。

もちろん栗原さんも、毎日試食を続けていた。

「家で朝食は食べず、出社してカップお茶づけの試作品を食べ続けました。空腹時の舌が、最も敏感ですから。日中の試食も、できるだけ食事から時間を空けて味を試しました」

それでも足りなかったものとは何だったのか。「永谷園のお茶づけ」と呼ぶにはふさわしくない、そう営業部に見抜かれた点はどこだったのか。

永谷園マーケティング本部の栗原紘明さん(左)と石川拓也さん(右)
撮影=プレジデントオンライン編集部
永谷園マーケティング本部の栗原紘明さん(左)と石川拓也さん(右)

素材を吟味し尽くして生まれる味わい

食べたことがないという日本人は、もしかしたらいないのではないか。そう言われるほどに浸透し、国民食とまで呼ばれるのがお茶づけ。その中で圧倒的なブランドを築いてきたのが、永谷園の「お茶づけ海苔」だ。

発売から73年。味がほぼ変わっていないというから驚く。お茶に合う昆布ベースの出汁に、加えられているのは、抹茶、塩、砂糖などじつにシンプルだ。だが、この味は「真似ができない」と言われている。理由はひとつ。素材の吟味である。

海苔は自社で入札。昆布はうまみ、とろみまで厳しくチェック。栗原さんが教えてくれた。

「素材がシンプルだからこそ、具材には徹底的にこだわります。海苔の買い付けは全国を回り、一番合うものを探す。11月末から始まり4月頃まで、産地に合わせて担当者も北上していくんです。だからその時期、担当者は会社にいません」

社内では、「海苔マイスター」と呼ばれているという。彼とその“弟子社員”が全国を巡り、海苔の道を究めている。抹茶、あられ、鮭にもプロフェッショナルな社員がいる。選び抜かれた素材が黄金比で混ざり合い、あのクセになる味わいになるのだ。