世界1780億ドルのマーケットを狙う

客のニーズに合わせた店舗運営は、日本国内で競っていくには欠かせないことのように思える。なぜこれが、古着文化の根づいたアメリカで実践されてこなかったのか。そう尋ねると、菊地さんも首をひねった。

「私たちも不思議だったんです。古着でも品質がよく自分好みに合うものがほしいという潜在的な欲求は、アメリカにもあったと思うんですよ。でもその顧客ニーズに対応する店がなかった。そこに私たちが培ってきた技術と経営方針がうまくはまったのでしょう。私たちのやり方を見て、競合店も次々と商品の幅を広げていますが、やはり実績がないので、査定が難しいようですね。『まだここまでは踏み込めていないんだな』というのが、商品を見ればすぐにわかります。まだebayやGrailedの値付けを見て査定している程度じゃないでしょうか」

セカンドストリートの快進撃は、アメリカだけに留まらない。既に台湾では30店舗、マレーシアでは17店舗を展開、2023年12月にはタイにも初出店を果たし、世界の古着リユースマーケット約1780億ドル、日本円にして28兆円を狙う。

Supremeの棚
筆者撮影
日本で培った査定や接客が、急ピッチで進む海外展開の原動力になっている。

かゆいところに手が届く国、日本を再認識した

当初の予想とは少し違ったが、セカンドストリートは「空気を読む査定」と「顧客中心の接客」という、とても日本らしい戦略でアメリカ市場を切り拓いていた。

アメリカに長期間滞在していると、かゆいところに手が届かず、もどかしい状況によく遭遇する。あらゆる商品の袋は開けにくいし、トイレットペーパーには切れ目が入っていない。シャワーは壁に固定されていてお湯をあてたい場所に届かないし、コンビニではレジ係が休憩中でレジに長蛇の列ができることもある。日本人がアメリカへ行くと、あらゆる「小さな不便」に直面するのだ。

そんな「小さな不便」は、日米の「働くこと」に対する意識の違いが反映されているように思う。アメリカでは働く人がみな、「楽しく働く」ことを重視しているように見えた。誰もがどこかの従業員なので、過度なサービスは提供しない代わりに、相手にも求めない。良い意味でも悪い意味でも、働く人を中心に店や会社が回っているように感じるのだ。

対して日本では、「お客さまは神様」という言葉があるように、いかに顧客ニーズに応えるかが市場の競争原理のひとつになっている。ときに働く側に負担をかけることもあるものの、誰もが顧客側に回れば、より質の高い商品やサービスを受けられる。

セカンドストリートがアメリカで躍進を続けているのは、「小さな不便」のスキマにピタリと入り込み、「日本人らしい」サービス形態を無理なくローカライズさせることができたからだろう。

ゲイシャ、フジヤマだけじゃない…日本企業の本当の強み

菊地さんは言う。

「日本からアメリカに進出する店を見ていると、『日本らしさ』を強く演出しすぎていると感じることがあります。しかし、どこの国でも現地に合わせることが重要だと、私たちは考えています。たとえばラーメン店でも、日本の味をそのまま持ってくると、現地では日本人にしか受けないんです。現地の人にとってはちょっと脂っぽすぎたり、しょっぱすぎたりする。現地に調和しつつ、現地になかなかなくて、潜在的に顧客が望んでいるものをお届けすることが大事なのではないでしょうか」

日本が海外から求められるものは、「ゲイシャ」や「フジヤマ」、「アニメ」や「ラーメン」だけではない。日本人の文化や特性、習慣などが、思いがけず海外需要にマッチすることがある。企業努力として当たり前のように培ってきた技術やサービスでも、海外のニーズにぴたりとはめることができれば、世界シェアを狙える余地は、まだあるのかもしれない。

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