いま辞めると「斎藤知事の疑惑」が雲散霧消する

県議会の審議の場で、知事の盾となるはずの副知事がてのひらを返したように知事に辞職を迫って、辞めてしまうのだ。

副知事がメディアなどと一緒になって「水に落ちた犬をたたく」という感じがして、どうもしっくりとしなかった。

まるで事実関係にすべて蓋をしてしまいたいように見えた。

パワハラ疑惑や「おねだり」というAさんの告発は自身の経験ではなく、他の職員からの伝聞であり、その告発が客観的に正しいのかどうかを判断するのは非常に難しい。

実際には、百条委員会を最後までやり通しても、真実が明らかになるのかどうかわからない。

しかし、斎藤知事が辞職してしまえば、非を認めたことに等しい。

そうなると斎藤知事を巡る兵庫県政のゴタゴタは闇に葬られる可能性が高く、その後、県政の立て直しを焦点とした知事選に世論の関心は向けられるだろう。

そもそも亡くなったAさんが告発した7つの問題を見ていくと、斎藤県政への強い反感はあまりにも主観的であり、具体的な説得力に欠ける。

斎藤県政のゴタゴタの根っこにあるものを指摘したい。

「不穏当発言」を県議会で追及されても辞職しなかった川勝前知事(静岡県議会本会議場)
筆者撮影
「不穏当発言」を県議会で追及されても辞職しなかった川勝前知事(静岡県議会本会議場)

「告発文」はすべて「客観性がある」と言えるか

Aさんは、告発文書の第1番目に、「五百旗頭いおきべ真・ひょうご震災記念21世紀研究機構理事長の逝去に至る経緯」を取り上げた。

五百旗頭氏が急性大動脈剥離で突然、倒れたのは、その前日に片山副知事が同研究機構を訪れ、2人の副理事長を再任しないことを五百旗頭氏に伝えたことだとある。

その結果、理事長、副理事長らの任命権者である同機構会長の斎藤知事を糾弾している。

この告発内容はどう考えても客観性に欠ける。

急性大動脈剥離を発症した80歳の五百旗頭氏の血圧が高かったことは予測できる。

だからといって、五百旗頭氏と面会した片山副知事が大きなストレスを与えたことが、「五百旗頭氏の命を縮めたことは明白」とはあまりにも飛躍しすぎである。

告発文では、斎藤知事を「井戸(敏三前知事)嫌い、年長者嫌い、文化学術系嫌いで有名」などと一方的な批判をした一方で、五百旗頭氏については「井戸敏三前知事から懇願され、兵庫県立大学理事長をはじめ兵庫県政に深く関わってきた」と高く評価している。

五百旗頭氏の死因となった急性大動脈剥離を発症したのは、2人の副理事長を再任しなかった「五百旗頭、井戸の両氏に対する嫌がらせ」がきっかけだったとしている。

斎藤県政に反感を抱くAさんの感想だろうが、その因果関係をちゃんと証明できるはずもない。

斎藤知事、片山副知事だけでなく、ふつうこのような極端な糾弾をそのまま受け入れる人はいない。