長男には8000万円をそのまま渡す両親の気持ちを感じてもらいたい
「あなたが死んだ後は、私が続けていけばいいわね。どれだけ長生きできるかわからないけど、確実に非課税で渡せるのなら安心ね」
「その他にもいろいろと気を付けなければならない点がありますので、実行される前に、税理士または税務署にご確認ください」
私は、少しでもご長男に資産を多く遺したいというご夫婦の熱意に感心しました。親亡き後のお子様の生活も心配ですが、ご自身の生活を優先することのほうが大切だとお話することも多いのですが、この時は言い出せませんでした。私はもう一つの懸念事項を申し上げました。
「親亡き後のご長男の生活は心配ですが、下のご長女とのバランスも大切です。ご長男に贈与をされるのであれば、ご長女にも何らかの手当をご検討されてください。そうでないとご長女に不満が残り、将来に相続争いを起こしかねません」
すると、父親はこう話しました。
「娘には自宅(戸建て、評価額6500万円)を残すようにします。娘家族は借家住まいですので、長女には一戸建ての自宅を、長男にはその分、預貯金(8000万円)を残そうと考えています」
「そうですか。ただ、ご自宅については同居されているお子さんが相続すると、ご自宅の土地の評価額を低く計算でき、相続税が少なくなるという特例があります」
今度は母親が答えました。
「わかっています。いずれ夫婦一人になったら、娘夫婦には同居してもらうつもりです。娘の旦那にもそのことは話してあります。その時には長男には賃貸アパートを借りて一人暮らしをさせます。親がいなくなったら一人暮らしをしていかなければなりませんから、早めに始めようと考えています」
「そうですか。であれば、問題ありませんね」
相続税の特例を調べた上で、先々まできっちりと計画されているのに、驚かされました。ただ、まだまだ先の話です。家族の気持ちの問題もありますので、計画どおりに行くかどうか未知数です。
それにしても、親亡き後の長男の生活を心配され、自分たちの楽しみを犠牲にしても財産を残そうという夫婦には気迫を感じました。子供のために、相続税の制度をうまく活用して、少しでも多くの財産を残そうとしているのがわかります。長男には両親の気持ちを感じてもらいたいと思いました。